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建築系映像ランダム・ガイド | 五十嵐太郎
Random Guide for Architectural Videos | Igarashi Taro
掲載『10+1』 No.38 (建築と書物──読むこと、書くこと、つくること) pp.134-135

建築系の映像といえば、デルファイ研究所からリリースされた「現代建築家シリーズ」が基本的なビデオといえるだろう。ロバート・ヴェンチューリとデニス・スコット・ブラウンの夫妻が、サンマルコ広場で発見したことを語ったり、「ディコンストラクティヴィズム・アーキテクチャー」展の会場風景やシンポジウムの様子が見られるなど、ポストモダンの同時代的なドキュメントとしても価値がある。
一昨年、建築学会における中部大学の企画で、ル・コルビュジエが一九三〇年に制作したフィルム『今日の建築』をとり寄せ、上映会を催したことがある。おかげで、『ル・コルビュジエ』全三巻(デルファイ研究所)で断片的に知っていた映像が、もともとどのようなシークエンスだったのかを初めて知ることができた(拙稿「プロモーション・ビデオとしての『今日の建築』」[『ル・コルビュジエ──パリ、白の時代』エクスナレッジ、二〇〇四]を参照)。それは一〇分程度の作品だったが、建築家の思想を的確に表現しており、ベアトリス・コロミーナが論じたように、近代建築とメディアの深い結びつきを改めて教えてくれる。もちろん、一九九〇年代以降、伊東豊雄青木淳渡辺誠など、プレゼンテーションに映像を効果的に使う現代建築家も少なくない。
ともあれ、デルファイ研究所のビデオは高価だが、おそらく多くの大学の図書館にも収蔵されているはずだ。したがって、本稿はここ数年に登場したDVDによる建築系の映像を思いつくままに紹介したい。最近は、タイトル数も増えたし、値段もビデオに比べて安くなり、だいぶ入手しやすくなったからだ。
建築家が自ら映像を制作したものとしては、まずイームズ夫妻の『EAMES FILMS──チャールズ&レイ・イームズの映像世界』(ASMIK、二〇〇一)が挙げられるだろう。一〇倍ずつ拡大あるいは縮小する「パワーズ・オブ・テン」(一九七七)など、六つの代表的な作品が収録されている。例えば、「ハウス:ケース・スタディ・ハウス#8──5年後の記憶」(一九五五)は、自邸にあふれるさまざまな日用品やコレクションをとらえており、建築に特化することなく、小さなモノのデザインも重視するまなざしがうかがえる。ミッド・センチュリーの再評価によってDVD化が実現したと思われるが、彼らの世界観察の鮮やかさに感心させられる。水戸芸術館の巡回展にあわせて発売された『アーキグラム・ムービーズ!』(アップリンク、二〇〇五)は、建築のメディア化を強く意識した彼らならではの映像だ。とくにデヴィッド・グリーンが制作した「アイ・リメンバー・アーキテクチャー」(一九七四)がクール。『2001年宇宙の旅』と《サヴォア邸》をパロディ化したアニメに続き、近代建築を揶揄する過激なマニフェストを行ない、コカ・コーラやロケット組立工場の時代を高らかに謳う。

1──『アーキグラム・ムービーズ!』

1──『アーキグラム・ムービーズ!』

懐かしい未来像を伝えるドキュメントとしては、『オスカー・ニーマイヤー』(ニューズベース、二〇〇三)と『FUTURO』(ニューズベース、二〇〇一)がおすすめ。『オスカー・ニーマイヤー』は、空飛ぶ円盤が着陸して美術館になるというお馬鹿なオープニングにもかかわらず、ブラジルの国民的建築家の生涯をていねいに開示する。ニーマイヤーが自作を説明しながら、すらすらと描くスケッチの上手いこと! また彼のキャラクターがいかに魅力的であるか。映像だからこそ伝わる情報といえよう。『X-Knowledge HOME』二〇〇三年一二月号のニーマイヤー特集でも、付録の映像がついていたが、残念ながら、こちらはあまりにアート的な撮影になっており、ブラジリアの雰囲気が全然伝わらない。また『FUTURO』は、一九六八年にフィンランドで設計されたUFO型住宅をめぐる記録映像。正統な建築史からは忘れ去られた建築だが、正しく一九六〇年代の雰囲気がそこに凝縮されており、アーキラボの展示に入ってもおかしくない。もうひとつ、IMI研究所の制作した『a life of EXPO』(二〇〇三)は、菊竹清訓の《エキスポタワー》をめぐる記録映像、シンポジウム、アート・プロジェクトなどを収録し、充実した内容である。菊竹のいまだ衰えぬパワーに圧倒されるはずだ。
現代建築家の映像としては、『建築家・安藤忠雄──格闘・わが建築』(NHK、二〇〇三)が、パワフルな建築家の活動を紹介している。一般に市販されているのは四九三五円の普及版で、約三時間+静止画像のコンテンツだが、DVD四枚から構成される五万四六〇〇円の決定版だと、過去のNHKの安藤番組を網羅しており、全部で九時間以上というすさまじいヴォリューム。一人の建築家としては、最大級のDVDかもしれない。『sur | FACE 14人の現代建築家』(UPLINK、二〇〇三)は、ライターやミュージシャンでもあるマルチ・タレントのローランド・ハーゲンバーグが監督したドキュメントであり、タイトル通り、建築家たちの顔を切りとる。特徴的なのは、作品の紹介よりも、建築家がどのような人物なのかを浮かびあがらせていること。また建築とメディアの関係、あるいは日本的なものとグローバル化についての質問が繰り返されており、それらに対するさまざまな回答も興味深い。
近現代の建築に関しては、『LANDSCAPES of ARCHITECTURES 世界の建築鑑賞』(UPLINK、二〇〇四)が素晴らしい。《バウハウス校舎》や《カサ・ミラ》から《ヴィラ・ダラヴァ》や《ユダヤ博物館》まで、それぞれ六作品を収録した全三巻。単にイメージ映像を流すのではなく、一作品につき二六分の映像があり、深く掘り下げている。豊富な資料をまじえながら、各建築が設計された背景やプロセスなどをわかりやすく解説し、大変教育的な内容だ。合計八時間近い。『アルネ・ヤコブセン』(UPLINK、二〇〇二)も、当時の貴重なフィルムを活用し、ていねいにつくられたドキュメント映像である。CGとしては、プランネットデジタルデザインの「Houses of the Century」が、《イームズ邸》や《シュレーダー邸》など、重要な住宅作品をムービーによって紹介する好シリーズ。コンピュータの発達とともに、映像の表現も確実に進化している。『日本のモダニズム建築』(彰国社、二〇〇五)は、日本を代表する一七人の近代建築家の作品の映像を五時間も収録している。これはサンプルの映像しか見ていないのだが、バックに流れる音楽は蛇足である。DVDではないが、書き言葉ではなく、話し言葉によって近代建築史を伝えるジョン・ピーター『近代建築の証言』(小川次郎ほか訳、TOTO出版、二〇〇一)の付属CDもお薦めしたい。ミース、フィリップ・ジョンソンルイス・カーンなど、巨匠の生の声を知ることができるからだ。筆者も、i-podにデータを入れてときどき聴いているが、こんなしゃべり方をするのか、という発見があってなかなか楽しめる。

2──『LANDSCAPES of ARCHITECTURES  世界の建築鑑賞』

2──『LANDSCAPES of ARCHITECTURES  世界の建築鑑賞』

3──「Houses of the Century」

3──「Houses of the Century」

都市についての映像は少なくないが、注目すべきものとして、押井守監修の『東京スキャナー』と『東京静脈』(ともに森ビル、二〇〇三)を挙げておく。いずれも六本木ヒルズのオープニング・イヴェントとして開催された「世界都市」展の会場で上映されたもの。筆者も、この展示の東京セクションの企画に関わったが、来場者は押井の映像のほうに心を奪われており、少々悔しい思いをした。が、それだけエンターテインメントとしてもよくできた作品である。『東京スキャナー』は、海中から飛び出し、森タワーの屋上に着陸するまで、偵察機のような物体を想定した空撮を展開している。もっともその映像は、新都庁舎のビル内の人物を暗殺することも可能だとほのめかす、きわめて不穏なもので、全方位的に視線が貫くことにより、戦争を起こす前にあらかじめ都市を制圧しているかのようだ。一方、『東京静脈』は、首都高速や道路をクルマが激しく行き交う動脈とすれば、川の流れを静脈とみなし、身近にありながら、あまり知られていないもうひとつの風景を提示する。
最後に番外編である。『東京大空襲──体験証言集』(小学館、二〇〇二)は、CGを利用する焼け野原になった東京の空撮映像よりも、生存者による語りのほうが圧倒的な迫力をもつ。特撮がなくとも、言葉の断片から、都市破壊の様子が生々しくよみがえる。そして『廃墟ロマネスク』(ポニーキャニオン、二〇〇三)は、全国の遺棄された鉱山や学校の映像と小林伸一郎の写真を収録したもの。間違いなく、廃墟探検のブームを反映しているが、建築が見捨てられ、死亡した後、苔や植物の繁殖によって鮮やかな色を帯び、新しい生命を獲得したかのように見えるのが興味深い。

>五十嵐太郎(イガラシ・タロウ)

1967年生
東北大学大学院工学研究科教授。建築史。

>『10+1』 No.38

特集=建築と書物──読むこと、書くこと、つくること

>ポストモダン

狭義には、フランスの哲学者ジャン・フランソワ=リオタールによって提唱された時代区...

>ル・コルビュジエ

1887年 - 1965年
建築家。

>伊東豊雄(イトウ・トヨオ)

1941年 -
建築家。伊東豊雄建築設計事務所代表。

>青木淳(アオキ・ジュン)

1956年 -
建築家。青木淳建築計画事務所主宰。

>渡辺誠(ワタナベ・マコト)

1952年 -
建築家。アーキテクツ オフィス主宰、淡江大学(台湾)講座教授。

>レイ・イームズ

1912年 - 1988年
デザイナー。チャールズ&レイ・イームズ事務所主宰。

>アーキグラム

イギリスの建築家集団。

>安藤忠雄(アンドウ・タダオ)

1941年 -
建築家。安藤忠雄建築研究所主宰。

>バウハウス

1919年、ドイツのワイマール市に開校された、芸術学校。初代校長は建築家のW・グ...

>フィリップ・ジョンソン

1906年 - 2005年
建築家。

>ルイス・カーン

1901年 - 1974年
建築家。