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《技術》と建築 | 柿本昭人
Technique and Architecture | Kakimoto Akihito
掲載『10+1』 No.20 (言説としての日本近代建築, 2000年06月発行) pp.35-36

今から七〇年前(一九三〇年)、エルンスト・カッシーラーは「形式と技術」という論文のなかでこう書いている。

技術は「責務を果たさんとする思い」の支配下にあり、労働における連帯の理想、とりわけ全体は一人のために、一人は全体のために活動するという理想の支配下にある。真に自由な意志共同体がまだ成立していなくても、技術はその仕事に携わっている者すべての間に、ある種の運命共同体を生み出す。それゆえ、正当にも、「服従による自由」(F・ベーコン)の思想が技術労働と技術文化の暗黙の意義として特徴づけられるのである。……(中略)……今日技術がしばしば咎めだてを受けているそのあらゆる欠陥と弱点は、とりわけ技術がいまだその最高の使命を果たしていないということと関係している。いや、技術がその使命を全く認識してすらいないこととそれは関係しているのだ★一。


前回取り上げた山陽新幹線のトンネル剥落事故とトルコ大地震以降も、「どうしてまた、そんなことを……」という事故が続いている。台湾大地震での建築物の倒壊(コンクリートの代わりに埋め込まれていた石油缶)。茨城県東海村のJCO東海事業所での臨界事故(規定の設備を使用せず、バケツで核燃料の加工を行なう)。首都高速でのタンクローリー爆発事故(急遽運搬することになった産業廃棄物が、通常運搬していたものと化学反応を起こした)。北海道でのトンネルの剥落による列車脱線事故(点検後「問題なし」とされた箇所での剥落)。山陽新幹線では「安全宣言」後にも剥落事故が続き、「総点検」を行なうことになった。ところが、「剥落とは無関係である」と会社側は説明するが、相次ぐ新幹線の窓ガラスのひび割れ。さらには、総点検を予定期間内に終了するために、点検基準の引き下げを会社側が行なっているといった報道もされている。
こうした一連の事故に遭遇する「この時代」というものもまた、技術の使命に気づいていない時代なのである。

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>柿本昭人(カキモト・アキヒト)

1961年生
同志社大学政策学部教授。社会思想史。

>『10+1』 No.20

特集=言説としての日本近代建築