正確な絵本……中谷礼仁
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約一年前、関西に越して最初のころ、どうにも馴染めなかったのは、住まいのまわりのいたるところに古墳が点在していることでした。
下宿先は、世界最大の墓と讚えられる仁徳天皇陵の近く、その隣の駅にありました。この付近は有名無名の古墳が点在する、ある筋では有名な過密地帯だったようです。その密度は、その地域のスーパーマーケット、あるいはマクドナルドよりも優っていたように思えます(マックシェイクを飲むために二つの古墳の前を通りましたから)。
上空から眺めればそこになんらかの幾何的な形態を見て取ることができるのでしょうが、日常では、印象はまったく異なりました。それは樹木やツタが繁茂し、光は吸いこまれ、けれども自然の丘陵というにはいかにも不自然で、大きな生き物がそのまま堆肥になってしまったような。名状しがたいそのシルエットは、忽然と人家のすき間から現われて、計画道路を不自然に曲げていました。
わたしの下宿の隣も、以前は古墳であったかどうかは知りません。ただその鬱蒼とした樹木の集まりに、その住まいのベランダは、簡単な柵を境にして、地続きでつながっていました。
ある日、シャツを干すために、サッシを開けベランダにあったサンダルに足を通そうとすると、不思議なことにサンダルが見つかりません。いぶかしみながら、その日はとりあえずこの事態に取り組むのをやめておきました。