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《建築》への意志 | 柿本昭人
The Will to "Architecture" | Kakimoto Akihito
掲載『10+1』 No.19 (都市/建築クロニクル 1990-2000, 2000年03月発行) pp.27-28

一九九九年九月一日、防災の日。名古屋の中心部にある白川公園で奇妙な光景に出くわす。公園内の遊歩道を挟んで、二つの異なる世界。一方は、公園のグラウンドで繰り広げられている防災訓練。赤い消防車が何台か並び、訓練の輪の中心には、火柱が立ちのぼっている。濃紺の制服、薄緑の制服が、号令のもとに移動する。白いテントの下には薄茶の制服が椅子に腰掛けて並んでいる。もう一方は、「林」の木々の間を埋め尽くす、青いビニール・シートで覆われた段ボール・ハウスの群。焚き火の煙が「林」に立ちこめてはいるが、人の気配がまったく感じられない。
TV局が近いせいもあるのだろう。ヴィデオの撮影も行なわれている。が、ヴィデオはガラスの壁面をファサードにもつ市立科学館のほうを向いていて、先ほどの「林」が訓練の撮影中にけっしてフレームの中に入らない位置に据えられている。当日のニュースで繰り返しこの訓練風景が流されることになるが、そのメッセージは明白である。建築物に迫った、地震による火災の危険が、消火活動によって防がれる。何しろ「防災」の日なのだから。家財道具の一切を失った震災後の生活──しかも長期間にわたる──を想起させる、青いビニール・シートで覆われた段ボール・ハウスを映すわけにはいかない。
「防災」という言葉は欺瞞に満ちている。倒壊するはずのなかった建築物が、瓦礫の山となる。消防の能力を超えた火災の発生。運良く消防車が到着することができたとしても、水が出ない。壊れるにまかせ、焼けるにまかせられる地区。そして、それに伴う死傷者の数。行政の側はそのことをよく承知のうえで、「防災」計画を立てているはず。

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>柿本昭人(カキモト・アキヒト)

1961年生
同志社大学政策学部教授。社会思想史。

>『10+1』 No.19

特集=都市/建築クロニクル 1990-2000