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広場嫌悪とスタイルの増殖 | 柿本昭人
Agoraphobia and the Propagation of Style | Kakimoto Akihito
掲載『10+1』 No.17 (バウハウス 1919-1999, 1999年06月発行) pp.28-29

追っ手を逃れてガード下にたどり着く男(=佐藤浩市)。まだ息急き切っている。画面は暗く、粗い。ノーネクタイに無精ひげのやつれた表情。携帯電話から恋人に待ち合わせのメールを送る。恋人のオフィス。デスクの上のパソコンが俯瞰される。密会の場所は夕刻の繁華街(「梅田」なので関西ローカルのCMかもしれない)。J-PHONE「スカイウォーカー」の連作CMは、携帯電話の秘密めいたプライヴェート性を差別化の担保にしようとする。待ち合わせ場所にやってきた二人。だが、お互いに離れた物陰から無言のまま見つめる。別れを告げる男のメールに、恋人からのメール。「臆病者」。愛を貫くことにたいして? 追っ手にたいして? 直接話すことにたいして?
秘密を背負った二人は繁華街で落ち合う。プライヴァシーが激しく露出される繁華街でこそ、密会は成功する。柱にもたれる待ち合わせの者たち。往来に向かってプライヴァシーが放出される。往来の中でも、公園のベンチでも、オープン・カフェのテラスでも、プライヴァシーが露出される。こちらに関心があるわけでもないのに、侵入してくるプライヴァシー。着信のメロディ、笑い声、うなづきの返事、キーボードを叩く音、目の前で開かれる新聞や雑誌。人はそれらを無《意味》なものとして言説化しているのか? 繁華街や公園といった文字通りの「開かれた場所」でのプライヴァシーの露出が、苛立たしさをもたらす。むき出しの《存在》による相互摩擦。それは「閉ざされた場所」での相互主観的閉所嫌悪と並立不可能というわけではない。

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>柿本昭人(カキモト・アキヒト)

1961年生
同志社大学政策学部教授。社会思想史。

>『10+1』 No.17

特集=バウハウス 1919-1999