RUN BY LIXIL Publishingheader patron logo deviderLIXIL Corporation LOGO

HOME>BACKNUMBER>『10+1』 No.49>ARTICLE

>
Google Mapsは建築にどんな影響を与えますか? | 本江正茂
What Impact does Google Maps have upon Architecture? | Motoe Masashige
掲載『10+1』 No.49 (現代建築・都市問答集32) pp.140-141

Google Mapsにまた新しい機能が追加された。これまでの道路地図、航空写真、両者のハイブリッドに加えて、「地形」が表示されるようになったのである。都市の微地形についてはまだまだ不十分ではあるけれども、自転車ロードレースの山岳コースを確認したり、盆地と平野などの都市間スケールでの地勢を把握したりするには十分な表現となっている。たとえば、仙台平野が大きく広がる宮城県において仙台市への一極集中が起こった一方で、小さな盆地や平地が散在する山形県では中小規模の諸都市に分散したままになってきたことの理由のひとつに地勢の違いがあるであろうことは、この地形図を見ればすぐに理解できる。
もちろん地形を表示する地図は昔からあったわけだけれども、元永二朗が指摘したように、「世界をあまねく収める標準の地図に『地形』が常に出ていることが重要なんです。この世界には『地形』というものがあるのだと」★一、そうあらためて感じさせるほどに、Google Mapsの地図プラットフォームとしての存在は大きい。
もちろんここにはひとつの倒錯がある。Google Mapsに表示されていようがいまいが、世界は起伏に満ちており「地形」が存在している。あたりまえだ。にもかかわらず、Google Mapsが「地形」を表示する事によってはじめて、地形が意味を持って存在するかのように感じてしまうという倒錯。「地図とは現実の選択的表示である」とジェレミー・ブラックはいう★二。Google Mapsという世界標準の地図プラットフォームにおいて「地形」は長く「選択」されることがなかった。「地形」はずっと「Google八分」にされてきたのである。

ではGoogleはなぜいまになって「地形」を「現実」のひとつとして「選択的表示」することにしたのであろうか。
Google Mapsは、地形表示機能の公開とほぼ同時に「My Location」機能(バージョン2β)を公開した。これは、携帯端末がGPS対応でなくても、基地局との関係を計算することで、端末のおおよその現在位置を把握できるというものである。Googleのデモビデオでは、ユーザの現在の居場所をもとに最寄りの飲食店を探すなどの使い方が紹介されている。もちろん居場所に関係した広告が提供されることになるだろう。
Google Mapsの地形表示とMy Locationという二つの新機能は、いずれもワールドワイドウェブの情報的論理的空間を、より具体的な手触りをもったかたちで物理的身体的な空間で結びつけようとする試みだと考えることができるように思われる。
「世界中の情報を整理し、誰からもアクセスできるようにする」を社是とするGoogleは、通常のウェブページをクロールし続けるのはもちろんのこと、大学などの図書館と提携し、かつて紙に印刷された書物を精力的にスキャンしてデジタル情報化し、自らのデータベース空間を拡大し続けている。その版図を拡大し、いまだ整理されていない情報を獲得し、データベースをさらに充実したものとしたい。そのためには、模糊として表現されずにあったなにものかが、情報として切り出される現場に立ちあい、それが産出された瞬間につかまえることが、ひとつの方向性であることは間違いない。その時、Googleは、人間が住まう物理的身体的空間へのコミットをさらに深めていくことになるだろう。

Google Mapsは、いわゆる「Web2.0」の代表的なサービスである。最初からAPIを公開し、誰もが容易にその地図データを利用し、自分の持っている情報と組み合わせたサービスをつくりだすことができるようにした。世界中のそれぞれの国で、最も詳細な地図と住所録を持つ企業と連携した。日本ではゼンリンとタウンページがそれにあたる。航空写真のコレクションを利用できるように企業ごと買収し、無償で公開した。かくしてGoogle Mapsは「世界をあまねく収める標準の地図」の座をいち早く確立し、さまざまなデータベースをみんなが載せていける「マッシュアップ」のプラットフォームとして君臨することになった。
実際Web2.0とよばれるさまざまなマッシュアップのうち、かなりの数のものが地図をベースにしている。情報を整理する方法には、アルファベット順や時間順、寸法順など限られた原理しかない。情報を地図上に配置するという方法は、その基本原理のひとつであることはわかっていたが、包括的な地図を用意することが極めて困難であるために、地図系のサービスをオンラインで始めることは、地図を昔から持っていた企業以外にはほとんど不可能だった。その状況をGoogleが覆した。情報整理の基盤としての空間の意義が、あらためて前景化した瞬間であった。

地図上に配置された情報は、その所在地を仲立ちとして、近接しあうもの同士は容易に相互に接続しあう。だから地図は、芋づる式のネットワーク拡張を目指すソーシャルネットワークサービスともなじみがよい。Google Mapsのマイマップ機能には、共同編集機能があり、設定次第でWikiのように誰でも編集できる地図を共有することができるようになっている。また、写真の共有サイト最大手として知られるFlickrも、投稿された写真を地図ベースで見るPlacesというサービスをはじめている。「わたしたちはPlacesを、世界のあらゆる場所のためのFlickrというアルバムのページだと考えています。あなたが写真を世界に貼り付ければそれだけ、Placesは豊かに、もっとずっとおもしろいものになってい」くという(引用者訳)★三。
これらのサービスは、いずれもユーザーたちがコミットしあうことで産出される、場所の意味に注目している。Googleは、あるいはGoogleにかぎらずネットワークの記憶機械たちは、人間によって場所が記号として表現され、場所の意味が産出される瞬間に、それらを集めてしまおうとしている。データベースに取り込んでしまえばこっちのもの。相互に関連付けられ、無限の関係性がデザインされ再生産されていく。

さて、建築はメディアである、と誰もが知っている。建築は、あるいは都市の建造環境は、場所の意味の格納装置であり、現実の選択的表示装置であった。つまり、記憶装置であったはずである。しかし、大昔につくられて残っているものならばいざ知らず、今日つくられているもので、未来にわたる記憶装置として機能し続ける建築を具体的に想像することは簡単ではない。いまや、建築は、相対的に記憶装置としての役割を奪われつつあり、少なくとも主役ではなくなりつつある。
しかし、場所の意味を産出する機能は残っている。これは(いまのところ)人間が物理的身体的な空間に直接関わりあうことによってしか創り出すことができないものだからである。都市と建築はこのプロセスを直接支援する役割を果たしてきた。その役割はまだGoogle Mapsには置換できない。

宮城県、山形県全域の地形地図 引用出典=Google Maps

宮城県、山形県全域の地形地図
引用出典=Google Maps


★一──jm@foo「Google地形図」。 URL=http://minken.net/mt/archives/000625.html
★二──ジェレミー・ブラック『地図の政治学』(関口篤訳、青土社、二〇〇一)。
★三──Flickr Places  URL=http://flickr.com/places/

>本江正茂(モトエ・マサシゲ)

1966年生
東北大学大学院。東北大学大学院准教授/都市・建築デザイン、環境情報デザイン。

>『10+1』 No.49

特集=現代建築・都市問答集32

>元永二朗(モトナガ・ジロウ)

1968年 -
エンジニア、デザイナー。オルタナティヴスペースfoo運営参加。