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潜水艦から海中居住まで | 野崎健次
From Submarine to Underwater Habitat | Kenji Nozaki
掲載『10+1』 No.46 (特集=宇宙建築、あるいはArchitectural Limits──極地建築を考える) pp.92-93

宇宙と同様に今後人間の開拓すべきフロンティアとして話題に上がるのが海中での人間の活動である。太古の昔から人間は海中での活動に関心をもち、素潜りで浅い海での漁などを行なってきた。人間が原始的な潜水艦で水中に潜ったのは一八世紀中頃が初めてであり、それ以来、敵から見つかりにくい特性が評価され、兵器としての潜水艦は大いに発展し、現在では排水量が三万トンを超える超大型原子力潜水艦までが実用化している。一方、人間が海中に設置した「建築物」で生活をすることを試みたのは一九六〇年代からである。そして米、仏、ソ連など各国が各種の海中居住施設を作り実験をしたが、いろいろな理由で一九七〇年代にはこれらのプロジェクトは萎んでしまった。
まず潜水艦について振り返ってみる。史上初の潜水艦は一人乗りのアメリカのタートル号で、アメリカ独立戦争のとき使われた。近代の潜水艦の始まりもアメリカで、二〇世紀の初めにホランドが設計したものである。潜水艦はその隠密性を活かして第一次、第二次世界大戦ではドイツや米国が通商破壊に盛んに用いたが、潜航中は、推進力が弱く短時間しか使えない蓄電池を使っていたため、「潜ることもできる船」でしかなかった。しかし、一九五〇年代半ばの原子力推進機関の実用化で、何カ月でも潜っていられる本当の意味での「潜水艦」が出現した。さらに敵国の中枢を攻撃できる弾道ミサイルを組み合わせることで、敵に見つかりにくい強力な海中艦隊が作られ、航空母艦と並ぶ海軍の主役になった。一方、原子力潜水艦が政治的あるいは経済的理由でもてない国も、外からの空気を必要としない各種エンジンの開発等により、長いもので何週間も連続潜航ができる通常動力潜水艦を保有するようになってきた。現代の潜水艦を例にとって、艦内の様子を探ってみる。サウナ、プール、レクリエーション室があるロシアの一部の超大型潜水艦は別として、どの国の潜水艦も発見されにくさや高速発揮のため、船体をできるだけ小さく設計するので、乗員の区画はかなり狭くなっている。海上自衛隊の潜水艦の場合、三段ベッドが基本で、士官でも二段ベッド、個室は艦長のみである。風呂はなく、シャワーは二─三日に一回、換気も最小限のため、数十日の任務を終えて満員電車に乗ると、自分の周りだけ空間ができるほど臭くなるといわれる。長期化する潜航時間によって、宇宙での居住と同様、空気質の改善はもちろん、乗員の長期閉鎖環境での精神的ストレス解消が重要である。
次に、海中居住であるが、二〇世紀になって人間が海中で活動するための各種潜水法が確立され、それをもとに海中居住の実験が一九六〇年代から始まった。フランスのクストーによるプレコンチナン計画や米国のSEALAB計画で、一〇人までの人間が一〇日間以上の海中滞在を行なった。一例として、米国のSEALAB IIの概要を示す。カリフォルニアの沖約四〇〇メートル、水深六三メートルの海底に一〇人が居住できる横置き円筒型居住施設を設置し、一六日でチームを交代した。居住施設は、出入り口区画、研究室、寝室を含む居住区画よりなっていた。室内の空気は四パーセントの酸素、八五パーセントのヘリウム、一一パーセントの窒素で構成され、約七気圧に加圧されていた。支援船にはDDC(船上減圧室)およびPTC(水中エレベータ)があり、潜水病を防ぐための減圧は船上のDDCで約三〇時間かけて実施した。これらの実験自体はおおむね成功した。海中居住が宇宙居住と決定的に違う点は、外部との圧力差である。宇宙の場合、真空の外部の世界との気圧差はどこでも最大一気圧だが、海中の場合は一〇メートル深くなる毎に一気圧ずつ圧力差が増え、例えば四五〇メートルの海中では四六気圧がかかることになる。そのため海中で人間が作業した場合、地上の一気圧に戻る際には、潜水病を防ぐため一九日間かけて徐々に減圧するというプロセスが必要となり、海中での生活を難しくしている。この点、潜水艦では、基本的に深海では乗員は海中に出ないため、どんなに深く潜っても潜水艦内は一気圧に保たれていて、長時間の減圧というプロセスは不要である。一九七〇年代に入ると海中居住の実験は急速に衰退してしまった。この衰退の原因は、①海中居住施設建設・維持費用が高い ②海底は深度一〇〇メートルを超えると真っ暗で、しかも目的とする調査研究の対象が少なくなる ③十分な潜水支援体制が海上になければ、海中居住は維持できない ④海中居住を行なって得られる成果も、海面から潜水して得られる成果もあまり変わらないことなどが挙げられている。
現在、莫大な費用をかけても採算が取れる海底油田に於いて、三〇〇─四〇〇メートルの海中でダイバーによる作業が世界各地で行なわれているが、それらは海上の支援船から、海底での作業拠点兼減圧室をケーブルで降ろす方式が一般的で、海底に設置する海中居住施設ではない。このように、深い海での海中居住はコストや人間の肉体的な制約で広く普及することは難しいと思われるが、潜水病の心配のない一〇メートルほどの深さまでは、レジャー等での海中居住施設の発展の可能性は残されていると思われる。

1──海上自衛隊潜水艦「おやしお」の3段ベッド 引用出典=『世界の艦船』1998年7月号(海人社)

1──海上自衛隊潜水艦「おやしお」の3段ベッド
引用出典=『世界の艦船』1998年7月号(海人社)

2──ロシアの949型(オスカー型)潜水艦のレクリエーション室 引用出典=http://www.ckb-rubin.ru /eng/project/submarine/aplskr/index.htm

2──ロシアの949型(オスカー型)潜水艦のレクリエーション室
引用出典=http://www.ckb-rubin.ru /eng/project/submarine/aplskr/index.htm

3──米国ロサンゼルス級原子力潜水艦の艦内 引用出典=http://www.staynehoff.net/los-angeles-class- cutaway.jpg

3──米国ロサンゼルス級原子力潜水艦の艦内
引用出典=http://www.staynehoff.net/los-angeles-class- cutaway.jpg

4──Sealab II 引用出典=http://www.photolib.noaa.gov/nurp/nur08016.htm

4──Sealab II
引用出典=http://www.photolib.noaa.gov/nurp/nur08016.htm

5──Sealab III断面図 引用出典=『世界の艦船』1969年8月号(海人社)

5──Sealab III断面図
引用出典=『世界の艦船』1969年8月号(海人社)

>野崎健次(ノザキケンジ)

1956年生
清水建設技術研究所。建築環境工学、宇宙工学、エネルギー工学。

>『10+1』 No.46

特集=特集=宇宙建築、あるいはArchitectural Limits──極地建築を考える