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広告 | 岩嵜博論
Advertisement | Iwasaki Hironori
掲載『10+1』 No.43 (都市景観スタディ──いまなにが問題なのか?) pp.144-145

都市空間を形成する広告

学生の頃に、ランドスケープデザインを専攻しようとしていたクラスメイトと、日本の都市景観における広告の影響についてちょっとした議論をしたことがある。彼女は日本の都市景観は屋外広告ばかりで美しくないという。確かに新宿や渋谷といった繁華街は、屋外広告や看板がひしめき合っていて、調和が取れた景観だとは言いがたいかもしれない。
一方、アジアの他の国に目を向けると、香港などは日本の都市以上に街中に看板や広告が溢れていて、外部の者からするとそれはそれで雰囲気があると感じるし、喧しさはあるかもしれないが、積極的な醜さを感じるものではない。東京にやってくる外国人旅行者にとっても同様に、東京の広告や看板に溢れる都市空間に、東京らしさ、日本らしさを感じているのかもしれない。このように考えると、景観に絶対的な美しさの基準があるかどうかは別として、景観の認識は大きく認識者の価値観やバックグラウンドに依存していると言えるのではないだろうか。
試しに、新宿駅周辺を撮影した写真を加工して、屋外広告や看板部分を塗りつぶしてみると、どこの街だかよくわからなくなり、街の活気を感じさせないものになってしまう。ある程度予想はしていたとはいえ、ちょっとしたショックすら感じてしまう。香港の下町に行くと、狭い道路幅にもかかわらず道路を挟んで立つ両方のビルからキャンチレバー状に支えられた巨大な看板が乱立しているのを目にすることが多いが、これらが一切なくなってしまった香港の街はかなり寂しいものになってしまうような気がする。
これらの現象を肯定的に捉えるならば、屋外広告は都市空間のらしさを形成するものであり、さらには都市生活者の、社会・経済活動の胎動を示すシグナルのようなものだと解釈することができるのではないだろうか。屋外広告で展開されるグラフィック広告は、文字の要素が少ないとは言え、表象的な説明要素を持ち、その街や国の文化的バックグランドを色濃く反映するものであり、都市の中を交錯する情報が可視化されたものだと考えることができる。また、広告で使用される色彩の組み合わせも文化的背景に大きく依存するため、建造物の色に加えて都市景観を形成する色彩的要素の担い手でもある。

場所と情報を接合するメディアとしての広告

広告業界では、屋外看板と、駅貼りポスターや車内の中吊り広告などの交通広告を合わせて、消費者が屋外で触れるメディアとして同一の機能を持ったものとして考えることが多いが、近年これらのメディアに対する再認識がなされている。その背景としては、都バスのラッピング広告が解禁されるなど掲載スペースの開発が積極的に行なわれていることに加えて、場所性が高い情報掲出スペースに注目が集まってるということが挙げられる。
インターネットや携帯電話の普及・発展によって、人間の情報摂取行動は急速に場所の縛りから開放され始めている。さらに、人々の情報収集行動は、メディアから一方的に与えられるいわゆるプッシュ型から、生活者の必要に応じて必要なものがリクエストに応じて供給されるプル型に移行しつつある。このような情報摂取のイニシアティヴが消費者に移るなかで、場所性に固定されたメディアはユビキタス時代でも接触効率が高いプッシュ型メディアとして注目が高まっている。
しかし、いくら接触の強制力があるとはいえ、生活者が見たいと思わなければ、あるいは好意的な印象を持ってもらわなければ効果的な広告としては成立しない。そのため、屋外メディアの表現開発は、最先端のクリエイティヴ開発の現場のひとつになっている。生活者にネガティヴな印象を与えることがないようデザインのトーンに注意しながら、印象に残り、意図したメッセージを的確に伝えるべく表現開発が行なわれる。いわばこれは情報化社会においてますます際立っていく場所メディアという舞台における、都市の情報デザインの実験場だと言える。
二〇〇四年八月にアディダスジャパンが出稿した屋外広告は、地上三二階のホテルの壁面に描かれた陸上競技のレーンをクライマーが競い合って垂直方向に登るというもので、アディダス社のブランドメッセージである「Impossible Is Nothing」を体現する企画として実施された。この前代未聞の屋外広告は二〇〇五年のカンヌ国際広告祭の屋外広告部門で銀賞を獲得している。近年、カンヌ広告祭のOOH(Out Of Home=屋外広告)部門にはこのようなクリエイティヴィティ溢れる広告が集結し注目を集めている。広告表現の世界において場所と情報の新しいかたちが模索されようとしており、今後の動向が興味深い。


1──香港の街並み  撮影=田仲薫

1──香港の街並み  撮影=田仲薫

2──駅の交通広告  筆者撮影

2──駅の交通広告  筆者撮影

3──新宿の屋外広告  筆者撮影

3──新宿の屋外広告  筆者撮影

>岩嵜博論(イワサキ・ヒロノリ)

1976年生
株式会社博報堂勤務。ストラテジックプランニング、イノベーションデザイン。

>『10+1』 No.43

特集=都市景観スタディ──いまなにが問題なのか?