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スマートハウス考 《トヨタ夢の住宅PAPI》 | 山本想太郎
On Smart House: TOYOTA Dream House PAPI | Yamamoto Sotaro
掲載『10+1』 No.41 (実験住宅) pp.105-112

│1│ 建物概要

《トヨタ夢の住宅PAPI》(以下《PAPI》)は、トヨタ自動車(株)およびトヨタホーム(株)によって、「愛・地球博」に合わせて愛知県長久手町につくられた実験住宅である。東京大学情報学環、坂村健教授を監修に迎えていることからも、同氏の《TRON電脳住宅》(一九八九─一九九三)の流れを汲む情報技術を中心としたシステムの提案という側面が色濃い。さらに世界で唯一、自動車と住宅の両方を開発している企業であるトヨタの特色を活かし、「自動車、住宅、ITの技術の融合による豊かな『世界像』」を提示することが目的とされている。地上二階建て。延べ床面積六三三平方メートル。構造は鉄骨ユニット+一部重量鉄骨・ステンレス鋼造。またトヨタ以外にも多くの建材・工業機器メーカーなどが開発協力企業として参加している(現在は一般公開されていない)。

│2│ ファクター4

ではそこにおいて未来の「世界像」として示されているのはどのようなものだろうか。坂村氏によるこの住宅の解説によれば、その中心コンセプトは「ファクター 4」と呼ばれるものである。「ファクター4」という言葉は、一九七〇年に設立された「ローマクラブ」のレポート「第一次地球革命」(一九九二)のなかで示されたものであり、さらにその後に「ソフトエネルギーパス」で知られるエイモリー・ロビンスらによって、具体的なレポートが作成されているものである。環境対策の推進のみならず、発展途上国の問題を解決するためには世界の豊かさを二倍にしなければならないという視点に立ち、「豊かさは二倍に、資源消費は半分にする」という四倍の効率増を提唱し、人口増大を前提とした世界における持続可能性を確保するための長期的目標としている。このような目標を示すもうひとつの有名な言葉としては、一九九一年にドイツのヴァパータール研究所によって提起された「ファクター10」があり、先進国一人当たりの資源・エネルギー消費量を二〇五〇年に現在の一〇分の一に削減することを目標としているが、これもおおむね同様の趣旨の提言である。
この「ファクター4」を掲げる《PAPI》の計画主旨は、すでに述べたように、さまざまな分野の先進技術を駆使して豊かで環境負荷の小さい暮らしを提案する、というものである。ここで難しいのは、定量的に判断できる環境負荷よりも、「豊かさ」をどのように解釈するかだろう。環境問題と商業主義が意識的に同居させられるとき、しばしばこの「豊かさ」という言葉の曖昧さが利用されるのである。日本における現在の住宅が、居住という要求に関してはすでにかなりの水準に達しているなかで、ここに何を付与していくべきか。商品化住宅という基盤のなかでそのような問題意識をどのように表現できるのか。そのことを念頭に、《PAPI》に盛り込まれた提案を見ていきたい。

│3│ スマートハウス

先端的、あるいは未来的なインテリジェント設備・機能を備えたようなイメージの住宅を「スマートハウス」と呼ぶ。そのなかでも「電脳住宅」のように情報技術を中心とした提案の実験や試作は一九八〇年代から行なわれるようになり、現在までさまざまな未来住宅像が提示されてきた。例えば一九八〇年代にテーラー・ムーアが記述したスマートハウスのシナリオは以下のようなものである。

起床する三〇分前に、給湯器にスイッチが入りシャワーを使う時間までには、ちょうどよい温度になるようになっている。(…中略…)外部が暖かくなる場合、もしだれかが家に居るならば、エアコンは室内が快適になるよう保たれるが、電力代が高い時ならば、午後のピークの二時間だけ運転は休止される。(…中略…)前もって夜に食器が入れられた食器洗い器は早朝運転される。あなたが外出している間、セキュリティーシステムはずっと見張りをしているが、近所の新聞少年が玄関に夕刊を投げ込んでも、まちがっても警察には通報しないといった判断はできるようになっている。(…中略…)帰宅して着替えをしている間に、留守中録音された電話のメッセージが再生され寝室のスピーカーから流される。(…中略…)夕闇が迫ってくる頃には、外灯がつけられ庭のスプリンクラーがベゴニアに散水する。(…中略…)就寝する前にスクリーンには全ての外部ドアと鍵のチェック状況が示される。(…中略…)夜中に牛乳を飲もうとベッドから歩き始めると、部屋につけられたセンサーがホールやキッチンの明りを自動的につけてくれる。
in Smith Ralph Lee, The Coming Revolution in Housing,
GP Publishing,Inc., 1988.
 岩下繁昭訳。出典=http://www.monotsukuri.net/
smart/smar01.htm


これらはすでにすべてが実現しているか、望めば可能な技術である。しかし《PAPI》をはじめとした現在のスマートハウスが示す機能も、ここから大きく変わるわけではない。ただし時代の社会的関心要素が上乗せされて加わってきており、ユビキタス・コンピューティング、環境・エネルギー問題配慮、セキュリティ配慮、ユニヴァーサル・デザインなどがそれにあたる。これらは必ずしも先進技術というような表現とはならないものであるが、スマートハウスにおいては「技術」に変換されて導入される傾向がある。その結果、次項で述べるような少しおかしな表現も生まれることとなる。

1──《PAPI》外観。アルミカーテンウォールは光触媒による耐汚性能を持つ 筆者撮影

1──《PAPI》外観。アルミカーテンウォールは光触媒による耐汚性能を持つ
筆者撮影

│4│ 形態デザイン

提唱されている「機能」と建物の形態は、《PAPI》の外観・内観においてほとんど関係していない。外観は金属製カーテンウォールの単純な形状であり、住宅としては珍しいかもしれないが、一般ビルではよく見慣れたものである。内部は現在の商品化住宅の典型的インテリアとされており、室構成も玄関ホール・居間・食堂・キッチン・個室・和室といった、オーソドックスな構成である(通常の家にはないプールや茶室もあるが)。
このようなデザインの背景には、数多くの提案機能を基本的には隠蔽してしまおうという精神がある。この隠蔽という行為こそが、現代における消費者の身体性の歪みをよく示している。つまり「メカニカルなものによる利便性を享受することに快適さを覚える一方で、メカニカルなものを見ることを嫌う」という傾向である。これは近代において建築に「設備」がもたらされて以降の「サーヴド/サーヴァント」という分離にはじまる意識分裂ではあるが、そこで隠蔽されるものが情報通信インフラとなるにしたがって、かなり本格的な隠蔽=消去が可能となってきているのである。
このような「機能」との完全な分離は、建築をシステムと表層に二分化するような現代建築のデザイン傾向を示しているとも言えるが、その一方で、「自動車・住宅・IT技術の融合」を謳うこの建物における「住宅技術」の活用には不満を覚えざるをえない。例えば外壁部分を見てみると、フラットなアルミ・カーテンウォールは環境配慮としては明らかに不適切であろう。単純に軒を大きく出すだけでも、耐久性や熱負荷軽減に大きく貢献するはずだし、多少の降雨時にも窓をあけることができる(網戸も必要)。窓あけによる自然換気は環境負荷ゼロである。また製造時における環境負荷の高いアルミの多用も気になるし、ディテール上ヒートブリッジも解決されていない。もちろんこのような外壁の問題は、その建物ごとの外部環境条件やその家庭のライフスタイルと密接に関わるものであり、一概に言えることではないだろう。しかしそのような個別の条件を無視した建築仕様にこそ、仕様過剰という環境負荷が潜んでいるのではないか。そして最大の問題は、ここにおいて建築が単に雑多な先端技術を収納する受容体であるのみで、それらが総体としてひとつのシステムとなるための基盤となっていないことである。そのような統合力こそ、自動車技術やIT技術にはない建築の力だと思うのだが。
したがって、いままでの多くのスマートハウス型実験住宅についても同様であったのだが、この建築を全体として論じることはとても難しく思われるのだ。これは本来全体として論じなければならない環境問題をテーマとするならば致命的な問題とも思えるのだが、ここでは、部分をピックアップしていくことによって新たな統合モデルのための礎として読解することが適当であると考える。それらには住宅の未来像について深い示唆を与えてくれるものもあり、それもまた実験住宅の価値なのだから。

2──キッチンからの内観。窓部は簡易エアフロー空調を備える 筆者撮影

2──キッチンからの内観。窓部は簡易エアフロー空調を備える
筆者撮影

│5│ ユビキタス・コンピューティング

《PAPI》における個々の機能を見ていく第一段階として、その情報システムを論じたい。ここにおける情報システムは、近年話題のユビキタス・コンピューティング技術を適用したものである。ユビキタス・コンピューティングとは、簡単に言えば、あらゆるものの中にマイクロ・コンピュータが内蔵され、それらがネットワークでつながっている状態を示す概念である。《PAPI》では冷蔵庫や収納庫の中のものなどの賞味期限や位置などの管理情報を一元管理するというシステムが示されている。きわめて簡略化して示すと図1のようなシステムとなる。
すべての物品に小型ICチップのタグが付けられ、そのID情報をもとに情報を管理するという形式となるのだが、このシステムの特徴としては、物品に付けられたチップはID情報(識別情報)のみを内蔵していて、実際の情報管理は「管理コンピュータ」が行なっているという点である。「バーコード」の置き換えと考えるとわかりやすい。このシステムの完成時には世界中の物品のIDが記録されたひとつのデータベースが必要になる。これは世界規模の規格合意が必要なことを意味するが、インターネットのようにある程度システムを階層化すれば構築・運用は不可能ではないだろう。
しかしそこまでのことをしても、一家庭内の物品の管理ということに限定すると、あまり大きなメリットは感じられない。じつはここから先がスマートハウスの概念における重要な岐路となる要素であり、《PAPI》においてもその点は曖昧にされている。つまり、システムをローカル(住戸内で完結)にするか、オープン(外部依存型)にするかということである。現在もっとも先進的なスマートハウスの概念は、グリッド・コンピューティングをはじめとしたオープン・システムであろう。そこには情報のみならず、各住戸が自然エネルギー利用で発電した余剰電力を伝送損失の少ないように近傍の住戸で使用するようなインフラのイメージも含まれてくる。情報生産者の利権も含め、このようにあらゆる情報やエネルギーなどの「リソース」を外部依存するシステムの場合、それは現在の資本主義的社会システムの変革を視野に入れなければならなくなるだろう。
もちろんあくまで家庭内のローカル・システムに徹する考え方もある。情報規格の統一さえできればローカル・システムは成立する。家庭ではすごく便利とまではいかないが、社会的にはこの IDタグは流通システムにおいて非常に有用なものであろう。少なくとも現時点では、ここまでが健全な将来像のようにも思える。

図1──PAPIにおけるユビキタスネットワーク 筆者作成

図1──PAPIにおけるユビキタスネットワーク
筆者作成

│6│ インテリジェント収納システム

まず大前提の部分で、少なくとも住宅内に関してはすべての物品をIDタグで管理する必然性があまり感じられないことは前項で述べたとおりである。実際に《PAPI》の「インテリジェント収納システム」(自動搬送型収納システム)を体験したのだが、コンピュータのメニュー画面から物品名を検索して呼び出しボタンを押すと、しばらくしてその物品が目の前に出庫されてくるというシステムは、それほど快適とは思われなかった。物置に行って中を見回すときのモノとの親密な関係がそこには感じられないのである。そのようにモノとの関係が仮想性を帯びたとき、インターネットやビデオゲームで快適なヴァーチャル空間をすでに体験してしまっている私たちにとって、その搬送のタイムラグは非常に不快なものとなるのである。結論として、もっと大規模な倉庫や図書館ならまだしも、家庭ぐらいの物品量でこの収納方式は一般的には適切ではないだろう。これも地域全体で物品を管理するようなシステムになると話はガラッと変わってくるかもしれないのだが。
ところで収納に変わるひとつのアイディアとして、無線通信で家中をサーチして、あるモノの置かれている位置を特定できるような装置は考えられないだろうか。これは通信の指向性や範囲をかなり限定すれば実現可能な技術であると思われる。これなら収納方法は個人の自由であり、家の中でのなくし物の位置を瞬時に検索できたらさぞかし便利であろう。これならばIDタグの恩恵をより強く感じられると思う。

│7│ 自動車との融合

トヨタが世界でもトップクラスの自動車メーカーであることは言うまでもない。そして自動車社会の未来像においても先進的なコンセプトを打ち出している。特に二〇〇四年に発表され、「愛・地球博」にも出品された一人乗りのコンセプトビークル「i-unit」は印象深いものであった。リチウムイオン・バッテリーで動く一人乗りの電動自動車である「i-unit」は、速度によって体勢を変えることができ、人の歩く速度と同程度の場合は上体を起こした低速姿勢モードに、道路を走る程度の速度の場合は重心を低くした高速姿勢モードになる。この変形は秀逸なアイディアで、電気自動車の低騒音性、クリーン性とあいまって、自動車が人の専用領域に入ってくる可能性を大きく前進させている。都市における歩車分離の原則概念をも揺るがすような力を感じさせるものであった。
《PAPI》に置かれていたのは、市販もされているハイブリッド・カー「プリウス」であった。このハイブリッド・カーも、近年のトヨタの見事な発明のひとつである。この住宅ではハイブリッド・カーの発電能力を活用し、停電時に車のエンジンによる発電で最大三〇〇〇Wの電力を三六時間以上供給可能としている。たしかに玄関扉の開閉まで電気制御のみとなっているこの住宅において、安定した電力供給は最重要課題であろう。一方でこの住宅が燃料電池ユニットを備えているということを考えると、エネルギー供給についてはあまり整理されていない印象もたしかに受けはしたのだが、自然エネルギー利用も含め、いろいろな給電方式が混在する状態こそが目標とされているとしたら、それは実はリアリティのある未来像と言えるのかもしれない。
しかしこの住宅で、「i-unit」ではなく「プリウス」が、普通に駐車場に置かれていたことは、やはり残念であった。住宅に自動車が本当に必要であるかというような基本的な疑念はここにはまったくない。これは自動車メーカーだからこそ考えてほしい要素なのである。「i-unit」が居間に入ってくるような未来住宅を期待していた私が率直にその意見を案内者に伝えたところ、回答は意外にも「そのようなことはまったく考えていなかった。居間に車が入ってきたら嫌なのでは?」というものであった。前述したサーヴド/サーヴァントの分離意識といえるだろう。もちろんこのような現時点での一般感覚に配慮することは重要なことではあるが、それを打開する試みが「i-unit」なのではなかったのだろうか。そしてそれを気持ちよい住宅空間として融合させるのが「住宅技術」分野の力なのではないか。ここにはまだ多くの可能性が残されている。

3──プリウスから住宅への給電 筆者撮影

3──プリウスから住宅への給電
筆者撮影

│8│ 自動ドアとインターフェイス

建築はこれまで、自動車から多くの技術を転用してきた。高性能の塗装技術やガスケットのような防水技術、構造シールによるガラス固定、フィルムによるガラス性能強化、そして燃料電池など、さまざまな技術が自動車工業を母体として生み出され、建築に応用されている。《PAPI》におけるそのような技術として面白いと感じたのは、ワンボックス車などで見られる技術を応用した「スマート自動ドア」というものである。秀逸なのは「引戸に手を掛けて開こうとするとそれをアシストするように自動的に開く」というインターフェイスである。もちろんそのシームレスな動きを生み出すリニアモーターや個人認証による開閉管理の技術も優れたものなのだが、それよりもこの身体感覚にあった自然なアシストは、パワーステアリングのような熟成されたインターフェイスを備えた自動車工業ならではのものである。これこそ身体に密接に関わる住宅に相応しい技術と言えよう。このような技術は今後積極的にほかの動作空間にも導入して欲しい。
一方で残念なのは、肝心の情報インターフェイスがそのような身体感覚をまったく無視したものとなっていることである。住戸内における主な情報インターフェイスは「ユビキタスコミュニケーター」と名づけられたPDAのようなものであり、タッチパネル式の液晶画面に表示されるメニューを操作するものなのだが、階層メニュー型の操作は、確実性がある一方で、日常的な扱いにおいてはかなり煩わしいものとなっている。携帯電話を猛スピードで操作する若者たちを見ているとその心配は不要とも思えるが、実際にはもっと優れたインターフェイスはいくらでもある。ビデオゲームで体験することもあるように、きわめて直感的に操作できるインターフェイスはある種の身体的快感を生むものであり、そうでないインターフェイスは不満や疲労を生み続ける。個人的には、高度情報化スマートハウスの成否を決めるのはインターフェイスではないかと考えている。今後、自動車メーカーならではの「ドライヴィング・アメニティ」に期待したい。

4──快適睡眠寝室 写真提供=トヨタホーム

4──快適睡眠寝室
写真提供=トヨタホーム

│9│ 睡眠・生体センサー

見学者からの反応が一番多かったものは、「快適睡眠寝室」らしい。開発者も消費者の眠りに対する関心度の高さに驚いたという。ここにも寝具をはじめとして多くの分野の最新技術が盛り込まれているのだが、そのなかでも際立っているものは「生体センサー」である。この生体センサーが眠りの深さのリズムを感知し、望みの時刻に自然に目覚められるように外光、人工照明を制御するというシステムが考えられている。本当に快適かどうかはここで寝たわけではないので不明だが、理論は納得がいくものであるし、なによりもこの生体センサーには強い関心を持った。腕に巻き、光の反射を感知して脈拍を読み取り、睡眠の深さを推定するというこの装置は、最初は自動車における居眠り運転防止装置の研究のなかで開発されたものであるという。現在の装置は脈拍を読み取ることしかできないが、寒暖の感覚や息苦しさ、空腹感などいろいろな人間の感覚を読み取ることができるようになれば、これは住宅のインテリジェント設備に対する究極のインターフェイスとなるだろう。具体的には簡易な脳波センサーというようなものが考えられる。トイレに尿の分析機能を設けて健康状態をモニターするというような機器の研究も聞いたことがあるが、いずれにしてもできるだけ簡易なものでなければ受け容れられないだろう。

│10│ 環境配慮

環境配慮は本来、通風や屋根形状、素材など、建築全体の構成と合わせて考えられるべきものであるが、ここでは個々の要素として示される技術のなかでも、特に興味を惹いた太陽光発電装置について言及したい。
「色素増感型太陽電池壁モジュール」(アイシン精機)は、酸化チタンの微粒子に「色素」を付与して植物の光合成に似た反応を起こさせる、という新型の太陽電池であるが、その原理自体よりも「材料や製造装置が安価になる」という売り文句が魅力的である。現在の太陽光発電装置は、製造にかかるエネルギーやコストを運用によって回収できないという重大な問題を抱えており、逆にいえばこれが大きく改善されれば、爆発的に普及する可能性も秘めている。現在ではコスト的な問題から採用されてもごく一部にとどまっていることの多い太陽光発電パネルが、建物の全面を覆ってしまうことも考えられる。このモジュールは「色素」の変化による意匠ヴァリエーションも意識されており、じつは未来都市の景観に大きく影響を与える研究なのかもしれない。ただし現時点では耐久性などについての明確な検証がなされていない。可能性のある技術だけに、今後慎重に見極めていかなければならないだろう。

│11│ 基本構造

この住宅の基本的な骨格は二・五メートルモジュールのユニットによって構成されている。そのユニット工法による将来の拡張の可能性も主要なコンセプトのひとつとして挙げられていた。建物の生産プロセスの簡易化ということに関しては、これは確かに効果がある工法であろう。現在の工業化住宅の多くが用いている基本的な方法論である。二・五メートルというモジュールも、身体や什器寸法ではなく、道路交通法における運搬時の制約から決められたものだということである。そのような生産的合理性の一方で、建物の拡張性という点においてはこの工法の必然性は乏しい。住宅の多くは敷地形状の制約のなかでつくられており、拡張に際してはより高度な自由度が必要とされるだろう。ちなみに上部にユニットを積むような拡張は想定されていないとのことだが、それは当然のことで、もし上部の新たな積載荷重に耐える構造があらかじめ下層部に設けられていたとしたら、それは過剰設計である。したがって、拡張性をキーワードにこのユニット工法を提唱することには疑問を感じざるをえない。

│12│ プレゼンテーション

この建築の全体を述べることはとても困難であると先述したが、ある「世界像」を示すことが目的である実験住宅のプレゼンテーションとして、いくつかの歯がゆさを感じた点を最後に挙げておきたい。
自動車との融合の項でも述べたが、この家に盛り込まれた各機能は、現在のままのライフスタイルでの生活のいろいろな局面を便利にする、というものである。主人は会社に出かけ、子供は学校、主婦は買物に行き、休日は家族でドライヴ……。それはそれで理解しやすいのだが、例えば情報技術の進化によって会社・学校・買物などに関わる個人の社会行動はこれから間違いなく変化していくだろう。環境問題の深刻化も生活に制約を強いるかもしれない。それらの予測のなかで、SOHOなどの併用住宅のように「家」というものに内包される社会性は急速に増加していくことも考えられる。そのような変化に対応し、より高度なアイデンティティを表現しうる「家」の姿が、残念ながらここには感じられなかった。これはもちろん、表層のデザインを付加することによってではなく、各機能と技術の本質的検証から生み出されるべきものである。
またこの家をここまで巨大に作る必要はあったのだろうか。未来技術のショウルームであると考えればよいのかもしれないが、モデル住宅として考えるならば、各家庭がこのサイズの住宅を持った場合の環境負荷は計り知れない。実際にこの巨大さが見学者の現実感を喪失させているのではないだろうか。多くの見学者はこの広さこそが「夢の住宅」だと感じてしまったことだろう。このような状況下では建築に対する感性は弱体化してしまいかねない。「ファクター4」に示された「豊かさ」は、世界的な持続可能性の追求から生まれた言葉であり、商品として過剰に供給される付加価値的『豊かさ』とはまったく異なった質のものである。商品化住宅の未来像を示すこの住宅から本質的な「豊かさ」を抽出していくために、今度は狭小敷地・ローコスト型の「夢の住宅」を作ってみてはどうだろうか。

参考図書
『現代住居コンセプション』(INAX出版、二〇〇五)に、本文に関連した次のようなキーワードに関する筆者の解説が掲載されている。
「スマートハウス」「設備」「車」「工業化住宅」「併用住宅」「インフラストラクチャー」。

>山本想太郎(ヤマモト・ソウタロウ)

1966年生
山本想太郎設計アトリエ主宰、東洋大学非常勤講師、明治大学兼任講師。建築家。

>『10+1』 No.41

特集=実験住宅