RUN BY LIXIL Publishingheader patron logo deviderLIXIL Corporation LOGO

HOME>BACKNUMBER>『10+1』 No.33>ARTICLE

>
環境情報デザイン・カタログ | 環境情報デザインワーキンググループ
Design Catalogue of the Environmental Information | Environmental Information Working Group
掲載『10+1』 No.33 (建築と情報の新しいかたち コミュニティウェア, 2003年12月発行) pp.90-102

1    はじめに──いまなぜ環境情報デザインなのか

現在、社会における情報化の普及・浸透、建築業界の市場縮小、地球環境への負荷軽減など、建築デザインを取り巻く環境が大きく変化している。これからは、新しく建築を建設するだけでなく、既存の建築物を利用したリノベーションや、建築後の利用・管理・運営など、人間の活動と環境に関わる時系列的な視点をさらに考慮し、より利用者の活動のニーズに合った建築空間のデザインが求められてくる。
また、高度情報化が進む今日では、建築や都市空間で活動するユーザーが、ITを介したコミュニケーションや環境のなかで、知識や情報をフィードバックすることにより、さらにそこでの活動が促進され、発展させられることが多くなってきている。その過程には、あらゆる意味で「情報」が介在しており、環境情報からの設計、すなわち「情報志向で環境デザインを考える」ことが今後ますます重要になると考えられる。
しかし、建築界では計画系と情報系の研究領域が別々に進められる傾向にある。情報系の研究も現在では、CAD・CAMといった設計支援ツールの研究のみにとどまらず、都市や建築のなかの情報活動に関わる研究や、遠隔システムなど幅広い情報技術を用いた設計プロセスの研究、さらには情報そのものの概念とデザインの研究など、その内容は多様化している。また、計画系の研究分野においても、既存の計画研究だけでなく、情報化によって建築空間の利用や機能が変化している現状を受け止め、それに対応したデザイン理論が必要であるという問題意識が深まってきている。本来計画系と情報系の両者は、同時に研究されることが望ましい。
こうした背景から、日本建築学会情報社会ビジョン小委員会内、環境情報デザインWG(ワーキンググループ)では、「情報」という観点から建築計画を再考察し、建築都市を含めた広義の意味をもつ環境デザインにむけて新しい理論を構築することを目指して二〇〇一年より活動を進めている。WGのメンバーは、建築、情報技術、デザイン分野の国内外の若手研究者、建築家、デザイナーで構成されている。

2    環境情報デザインの背景
「情報」を切り口とする

環境情報デザインの研究では、「情報」を切り口としてこれまでの環境デザインにおける研究領域を横断する。それは例えば、J・ギブソンが「アフォーダンス」を用いてそれまでとは異なる、新しい知覚の世界を切り開いた手法に似ている。
そもそも環境デザインは、「人間とその周囲のあらゆるスケールの物理的環境の相互関係を研究するもの」(「G・T・ムーアほか『環境デザイン学入門──その導入過程と展望』[三浦研訳、鹿島出版会、一九九七])とされ、政治的・社会的・経済的な背景や、研究の進め方・実践、さらにはコミュニケーションや知識の普及まで、かなり広範に研究領域が設定されている。それにもかかわらず現在の環境デザインは、専門分野ごとに細分化され、新しくて複雑な課題に対して十分に対応しているとはいいにくい。
環境情報デザインでは、環境デザインを生活者にとっての界面(インターフェイス)として捉え、「建築計画」、「環境デザイン」、「人間工学」といった既存の分野に縛られることなく、「情報」から環境デザインそのものを問い直し、再構築していく。

横断的な学問

これまで、環境を対象とした横断的な学問としては、前述の「アフォーダンス」を軸とするJ・ギブソンの研究や、「行動」を軸とするE・T・ホールの研究などがある。この両者の研究は、対象とする研究領域が広範囲であったり、あるいはそれまでになかったものを対象としている。しかし、考察の切り口が大変明確であったために、新しい世界観を鮮やかに切り開くことができた。

環境情報デザインにおける「情報」とは何か

それでは、環境情報デザインの切り口である「情報」とはどういうものを指しているのだろう。ここでいう「情報」とは、必ずしも情報技術(IT)だけを指すものではない。環境情報デザインでは、今日、極めて曖昧に扱われている「情報」そのものの捉え方、さらには「情報」から見たときに見える新しい環境デザインの世界とはどのようなものなのかを考えたい。
現在私たちの生活のなかで日常的に使われている「情報」が指すものは、例えば、インフラ、サイン、記号、デジタル信号、データ、メッセージ等々、使われ方が多様になり、その意味も拡張している。環境情報デザインのひとつのミッションは、これらの「情報」を整理して構造化し、実際に環境デザインとどう関わっているのか、また「情報」をどのようにデザインすることで、どのような新しい環境デザインを創造することができるのかを考察することである。
私たちの身の周りの生活を考えてみれば、個人情報端末の普及や、ネットワーク環境の構築といった技術的変化が大きな要因となり、これまでの学術領域で扱われてこなかったような人と環境の大きな関係の変化が起きていることは確かである。
具体的には今後、ケーススタディで見るように、地域社会への個人の関わり方の変化、ITの普及に伴うオフィスや住宅の新しい形態の出現、公共空間における個人の行動や行為の変容、WWWやVRの実空間への展開、といった新しい動きは、人と環境との関係の変化を表わす一側面と考えられる。
これまで「デザイン」は、物理的に見えたり、触れたりすることのできるカタチを扱うのが一般的であったが、環境情報デザインにおける「デザイン」では、物理的環境のデザインのみならず、その背後にある関係性や見えない構造やシステムも含めてデザイン対象として考えることに特徴がある。

3    環境情報デザインの概念

環境情報デザインでは、建築計画の分野で以前から扱われていた環境領域(都市・建築・空間・場等)と活動領域(組織・コミュニティ・管理・運営等)に新たに情報領域を加え、情報という視点から環境と人の活動を再考察し、これら三者が相互作用の関係にあることを前提として研究を進める。ここでは、環境領域、活動領域、情報領域を横断する新しいデザインを「環境情報デザイン」の枠組みとする[図1]。

1──環境情報デザインの概念

1──環境情報デザインの概念

4    環境情報デザインの事例

環境情報デザインWGでは、「環境情報デザインとはなにか」を明確にするために、まず環境情報デザインと思われる事例を集めようということになった。そこで、各方面で活躍しているWGのメンバーが「これは環境情報デザインの事例では?」というケースをピックアップして、メンバー内のプライヴェートWebにブラウズできるようにした。そのケースは一〇〇例以上にもなる。そのなかでも特にこれははずせない「環境情報デザイン」と考えられる事例をさらに抽出したものを以下に挙げる。
[渡邊朗子]
1 NOPE──21世紀のトキワ荘
2 メディア・テーク──地域コミュニティのハブ
3 インタロガティブ──街が劇場    
4 i-work / ING-cafe──ユビキタスに働く
5 グリーンマップ──みんなで再発見する都市マップ
6 ラスベガス──街中がメディア
7 六本木ヒルズ──富と名声のラビリンス
8 みまもりほっとライン──親の元気がポットでわかる
9 クリスタルルーム──なんとなく情報公開
10 Qフロント/アルタ──ビルがテレビ
11 バルセロナ・パヴィリオン──素材が情報を発信
12 都ネット/NYC wireless──無線LANで街づくり
13 Map of the Market──地図になった株式市場
14 Intelligent Space──学習するかしこい空間
15 USJ/ディズニーなどのテーマパーク──
15 幻想のためのリアルワールド
16 ブルームバーグ/岩井俊雄の作品──人に反応する情報
17 時空間ポエマー──GPSであなたはどこ?   わたしはここ!
18 G-SEC Lab──世界を引き寄せる咸臨丸
19 東京21Cクラブ──ビジネスを紡ぐコミュニティサロン
20 パンテオン──光と建築の未知なる遭遇
21 光の館──光のアートによる場の体験
22 ライフスライス──生活の構造を視覚化する
23 風の塔(伊東豊雄)──見えないものを視覚化する
24 住民・学生協働の雁木づくり、まちづくり──ローテクな環境情報デザイン
25 Augmented Reality──人間用にコンピュータを飼いならす
26 E-trade──情報のデパート
27 X'tal Vision(クリスタル・ビジョン)──曖昧になる仮想と現実の境目
28 Congestion Charge──監視される都市
29 アイススポット──IT世界の無人島
30 キネティックデザイン──人と空間をダイナミックにつなぐタンジブル・インターフェイス

本稿では、このなかでも特に代表的な(太字)一〇事例に着目し、各解説を行なうことにする。

1.  NOPE──21世紀のトキワ荘
納村信之田島則行

1996 年11月に東京都港区三田に発足したオープン・スタジオ・ノープは、大きなひとつ屋根の下、総勢20数名のさまざまなデザイナーや建築家によってリノベーションされたシェア・スタジオである。今年11月には8年目に突入し、その間メンバーの変更に伴い、どんどん変化して新たな集団的場の関係を空間的につくりだしてきている。集団心理学の分野において小集団の中で個々の力学的関係が絶えず集団内にダイナミックな変化を与えると分析されているように、メンバーの変化に伴うシェアリング環境の変化に対応していくためには、物理的環境デザインのみならず、人間関係や人の働き方といった目に見えない「情報」も含めてデザイン対象としていく必要がある。そこで、「情報」、特に人と人との関係やコミュニケーションといった観点から、環境情報デザインのひとつのケーススタディとして、スタジオ・ノープを紹介する。
このスタジオの特徴は、70坪という大空間を足場、パーティションや半透明波板、カーテン等を使って、ゆるやかに間仕切り、メンバー同士お互いに干渉しあいながらも、独立性を保つ工夫がなされている点にある。さらに、メンバーの変更に伴い、パーティションの位置がどんどん変化し、人と人との交流の仕方において独特な情報環境をつくりだし続けている。そのため、集団内や外来者とのコラボレーションといった偶発的なインタラクションが発生する新しいワークシェアの可能性を模索できる実験場ともいえる。
このスペースは、全て天井まで届かないパーティション等で間仕切られているため、音はすべて筒抜けとなっている。そのため、視覚的なコミュニケーションが不可能な状況でも他のメンバーが何をしているかが物音や声を通じて推測できる。また、プライヴェート・スペース出入口のカーテンの開閉といった目に見えるサインもその中で発生する音と連動してコミュニケーションにおいて重要になってくる。カーテンは閉められているが、中からキーボードをたたく音が聞こえてくるような状況は、他のメンバーとのコミュニケーションを拒否して集中したいという情報を他のメンバーに発信している。2─3人がシェアするスペース内では、個々のデスクの位置やシェルフを兼ねた足場によって見えそうで見えない微妙な関係を維持し、お互いの精神的な距離感を保つ工夫をしている。一方、スタジオ内で最もオープンなパブリック・ミーティング・スペースは、個々のメンバーの活動が表出するステージとして機能している。外来者とのミーティングなどのプライヴェート・スペースでは不可能な行為がここで行なわれ、スタジオに出入りするとき、そこで起こっている状況をチェックできるので、各メンバーが何をやっているのか断続的に把握することができる。このように物理環境と連動しながら、目に見えないさまざまな情報そして隠れた構造や関係が人びとの働き方または交流の仕方に非常に大きな影響を与え、個人の知覚、メンバー間の定期的ないし継続的、あるいは偶発的な相互作用によって柔らかく連帯感を感じる状況をスタジオ内でつくりだしている。
上記のようなさまざまなインタラクションを引き起こす刺激的でクリエイティヴな状況を維持し続けるためには、各スペースを間仕切り壁で完全に閉じるのではなく、変化するメンバー間の関係、人と人との関わり合い方といった目に見えない情報を考慮しながらスペースを再構築していく必要があるといえる。今後も引き続き刻々と変化するノープの「環境情報」に呼応しながら、また、今までつくりあげてきた柔らかなルールや現状の人間関係を尊重して、現時点での適切なワークシェア環境を「スロー」にデザインしていくつもりである。

ステージ1:インフォーマルなシェアリング環境(1999年6月) ファインアートとデスクワーク系のグループとが通路を介して分かれ、中心に配置されたミーティング・スペースを通じて他のメンバーのスペースにアクセスできるようになっていた。ひとりの占有スペースも3─5坪と大きめで2─3人が間仕切りで囲まれたブースをシェアする等曖昧。この時期、メンバー同士がさまざまなプロジェクトを共同で行なっていたため、共用スペースを横断して活発に交流が行なわれ、ミーティング・スペース自体が人を交錯させる場(ノード)として機能していた。

ステージ1:インフォーマルなシェアリング環境(1999年6月)
ファインアートとデスクワーク系のグループとが通路を介して分かれ、中心に配置されたミーティング・スペースを通じて他のメンバーのスペースにアクセスできるようになっていた。ひとりの占有スペースも3─5坪と大きめで2─3人が間仕切りで囲まれたブースをシェアする等曖昧。この時期、メンバー同士がさまざまなプロジェクトを共同で行なっていたため、共用スペースを横断して活発に交流が行なわれ、ミーティング・スペース自体が人を交錯させる場(ノード)として機能していた。

ステージ2:フォーマルなシェアリング環境(2002年10月) ファインアート系のアーティストに代わってウェブデザイン、建築事務所といった組織型のメンバーが多くなり、ミーティング・スペースでは主にビジネス・ミーティングが行なわれることが多くなった。レセプション用カウンターが新設、共用スペースがフォーマルな場所として位置づけられた。一方、プライヴェート・スペースではスタッフも含めたメンバー数は40人近くに達し、ひとりの専有面積が著しく減少。業務効率化と高密度化のため各事務所毎のスペースが明確に間仕切られ始めた。

ステージ2:フォーマルなシェアリング環境(2002年10月)
ファインアート系のアーティストに代わってウェブデザイン、建築事務所といった組織型のメンバーが多くなり、ミーティング・スペースでは主にビジネス・ミーティングが行なわれることが多くなった。レセプション用カウンターが新設、共用スペースがフォーマルな場所として位置づけられた。一方、プライヴェート・スペースではスタッフも含めたメンバー数は40人近くに達し、ひとりの専有面積が著しく減少。業務効率化と高密度化のため各事務所毎のスペースが明確に間仕切られ始めた。

公開を制限しています

8.  みまもりほっとライン——親の元気がポットでわかる
本江正茂


「みまもりほっとライン」というネットワーク・サービスを象印マホービンが提供している。電気ポットの使用状況をインターネットを利用して遠隔地から確認するというものだ。
想定されている典型的なユーザー像は、介護は必要ないが、ひとりでいるのは心細いと感じている独居老人と、気にはしているのだが、離れて暮らしているのでなかなか会いに行くこともできないでいる息子や娘である。
システムそのものは非常に簡明だ。見た目はまったく普通の電気ポットで、老人はいままでと同じようにお湯を沸かし、日に何度かお茶を入れ、電源を切って寝る。特別な操作は一切ない。このポットには無線通信機が内蔵されていて、ポットの使用状況(電源のオン/オフ、給湯、保温中)の記録が、携帯電話用のパケット通信網を使って、システムセンターに定期的に自動で送られる。センターに蓄積されたポットの使用状況は1日に2回ダイジェストにされて、息子や娘の携帯電話やパソコンにむけて電子メールで送られる。リアルタイムでのより詳細な状況をウェブで見ることもできる。いつもの時間にいつものようにお茶を飲んでいるなら、平穏無事だと安心できる、というわけだ。
それだけ……と言ってしまえば、たったそれだけのシステムである。だが、このシンプルなシステムのなかに、居住環境に情報技術を実装していくときに大切な、多くのヒントが含まれている。

老人から見た場合、システムのメンテナンスを意識する必要はおろか、システムを稼動させるための特別な操作さえ、まったく必要ない、という点が重要である。装置そのものも、監視カメラのように存在が気に障るものではなく、見慣れた電気ポットだというところがよい。また記録される情報が、プライヴァシーに関わるデリケートな個人情報などではなく、ただお湯を使ったかどうかだけであるところもよい。
日々の生活のなか、お茶を入れるという気分転換のタイミングに、立上る湯気の向こうで、誰かが私のことを気にしてくれている、と実感できる。私は元気よ、と言葉には出さなくても伝えることができる。実験時の被験者からは、「お湯を出すボタンを押すたびに、家族と繋がる意識が芽生え、電気ポットが息子のように思えてきた」という声もあったという。
ポットを息子だと思うのは哀れだろうか。愛する家族を気遣うために自動機械を使うのは、人間味を欠き冷淡にすぎるであろうか。とはいえ、相当好きな相手からでも、毎日2回、「私は元気です」と書かれたメールが送り付けられてきたら、かなり辟易するだろう。機械が自動的に処理を行なうことの利点は、忘れたり間違ったりしないという正確さだけではない。ここでは、自動的だからこそ、お互いに精神的な負担にさいなまれずに続けていける関係がつくられているのである。
「みまもりほっとライン」は「いざという時」には役に立たない。いつもと違うと感じた息子は自ら母に連絡するしかない。同様の指摘は多かったとみえて、緊急通報サービスではありません、とパンフレットにも特記されている。だが、有事に際して緊急警報を発するのではなく、日常の無事をたんたんと見守るということ、その営為自体の価値をとらえようとしている点にこそ、居住環境を考えるわれわれに強く訴えてくる、このシステムの真骨頂がある。テクノロジーにとっては、極端な状態にあるもののほうが単純でモデル化しやすく、むしろ扱いやすい。非常時への備えに不可欠などと喧伝される情報テクノロジーのいずれもが、何か浅はかでデリカシーを欠く印象をまぬかれえないのは、平穏な日常の深みのうちにこそある困難な問題に光をあてていないように思われるからだろう。
誰かに自分の存在を認めてもらいたい。でも煩わされたくないし、煩わしいと思われるのも辛い。でもやっぱり心細い。でも……。そんな心の微妙な距離感を正しく測りながら、人々が暮らしていく環境をちょうどよく整えていくということも、環境情報デザインの重要な使命のひとつなのである。

みまもりほっとライン
http://www.mimamori.net

♪京都の親がポットを押したら ♪電波がピピピ

♪京都の親がポットを押したら
♪電波がピピピ

♪東京の息子にメールが届く

♪東京の息子にメールが届く


♪母さん今朝から押してない

♪母さん今朝から押してない

♪忘れたのかい今日は墓参り 写真提供=象印マホービン

♪忘れたのかい今日は墓参り
写真提供=象印マホービン

公開を制限しています

24.  住民・学生協働の雁木づくり、まちづくり──ローテクな環境情報デザイン
岩佐明彦

栃尾市表町は、新潟県中越の多雪地域の、川と山に挟まれた表町通りに沿った全長約400mの地区である。古くは職人町として栄え、職業に応じて路面や軒高が異なる雁木(各家屋が通りに面した部分を提供してできた屋根付き通路)が街並景観を形成している。71世帯240人の半数が60歳以上(平成13年現在)であり、著しく高齢化が進んでいる。新潟大学工学部建設学科建築コースでは、3年生の授業カリキュラムの一環として表町で環境形成活動を行なっている。この活動の最大の特徴は、住民と学生が協働して町の中に実際に雁木を作ってしまう点であり、平成14年までに4つの雁木を建造し、現在5つめの雁木の建造に取り組んでいるところである。

・活動に組み込まれた「教える」と「選ぶ」

活動は8人程度のグループごとに雁木のデザイン提案を競うことから始まる。4月から1年かけて行なわれる住民・学生協働のこの活動で特徴的なのは「教える」「選ぶ」という2つのステップである。

「教える」──町のメモリーの活性化

この活動のなかに表町に関して大学で講義する機会は一切ない。学生は知りたいことをすべて表町の人々に訊くしかない。学生たちは何度も住民宅を訪れ、雪深い表町の伝統的な暮らし方や町の歴史など、デザイン提案のヒントを学んでいく。住民にとっても、この第三者に教えるという行為は伝承を確認する作業になっている。また学生を通じて、知りえなかった表町の側面を住民が知ることもある。過去には学生の提案(表町通りに物語を作るなど)が、年度を経て住民から学生に伝えられるなど、学生の視点が住民にフィードバックされている例もあった。学生と協働するなかで、町の記憶が強化され、住民に共有されている。

「選ぶ」──コンセンサスの形成

建造する雁木は住民投票で選ばれる1案だけである。9月中旬に最終提案が行なわれる。学生の提案は雁木単体だけでなく、雁木をきっかけとした表町の将来像にも及ぶ。たくさんの選択肢のなかからひとつの案を選ぶことは、住民に表町に対する見解を問いかける機会にもなっている。年度を追うごとに住民の雁木を選ぶ着眼点も揃いつつあり、町に対するコンセンサスの形成に役立っている。

・ローテクな環境情報デザイン

「情報からデザインを捉える」という観点でこの活動をみたとき、学生を情報媒体として介在させたプロセスが、住民が持っている町の記憶を強化(「教える」)し、現状認識や将来像のコンセンサス形成(「選ぶ」)に寄与していることがわかる。学生自らが町の中に入り込んで雁木造りをするというローテクの集積のようなデザイン活動であるが、そこには環境情報デザインの範疇に入るべきデザイン行為が含まれている。町の中に散らばっている情報をどう拾い上げ、強化し、共有させていくのか? 情報オリエンテッドに検討することで、雁木の建造という成果に向きがちな活動を、活動プロセスのデザインという視点からリデザインできる可能性を指摘もできよう。

1──完成した雁木 (平成12年度)

1──完成した雁木
(平成12年度)

2──栃尾市表町

2──栃尾市表町

3──学生による住民宅訪問

3──学生による住民宅訪問

4──デザイン案の提案

4──デザイン案の提案

5──住民・学生協働の建造作業

5──住民・学生協働の建造作業

参考サイト
・雁木によるまちづくり(栃尾市表町)
http://www.city.tochio.niigata.jp/matidukuri/gangi/index.html
参考文献
・梶原健太郎「住民─学生間の協働による環境整備活動の有効性と課題──新潟県栃尾市表町におけるケーススタディ」(新潟大学工学部建設学科卒業論文、2001)
・岩佐明彦+西村伸也+梶原健太郎+渡邊隆見「住民─学生協働によるまちづくり──新潟県栃尾市表町におけるケーススタディ」(『日本建築学会技術報告集』第16号、2002)

公開を制限しています

>環境情報デザインワーキンググループ(カンキョウジョウホウデザインワーキンググループ)

>『10+1』 No.33

特集=建築と情報の新しいかたち コミュニティウェア

>アフォーダンス

アメリカの知覚心理学者ジェームズ・J・ギブソンが創出した造語で生態心理学の基底的...

>伊東豊雄(イトウ・トヨオ)

1941年 -
建築家。伊東豊雄建築設計事務所代表。

>納村信之(ノムラ・ノブユキ)

1965年 -
建築家/名古屋商科大学准教授/博士(工学)。tele-design共同主宰。

>田島則行(タジマ・ノリユキ)

1964年 -
建築家、アーバニスト。Twlw-designおよびオープンスタジオNOPEメンバー、関東学院大学非常勤講師。

>岩佐明彦(イワサ・アキヒコ)

1970年 -
都市計画・建築計画。新潟大学工学部建設学科准教授。