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13:アンドレア・スティーパ:隙をつき隙間を埋める設計手法 | 柳志野
Andrea Stipa: Design Method which Exploits Gaps to Fill Gaps | Yanagi Shino
掲載『10+1』 No.22 (建築2001──40のナビゲーション) pp.108-109

1964年シチリア生まれ。89年ローマ大学建築学部卒業後、渡米。アイゼンマン事務所に勤務し、コロンビア大学マスターコースに通う。現在はローマで自分の事務所をかまえ、設計を行なっている。

史跡財産の保存と新しい建築

 
ファッション雑誌のグラビアでもお馴染みのようにイタリアといえばデザインの宝庫と思われがちである。実際アパレル関係に限らず、家具、照明、キッチン製品、車などデザインと名のつくものではユニークなものが多い。ただローマの現代建築ということになると、次々と生み出されるほかのデザインと比べ、いまひとつ活気がないと言わざるをえない。もちろん建築と工業デザインをいっしょくたに比較しても意味がないのかもしれないが、ここで強調したいのは、ローマでは分野を問わず、なにか新しいものを探すのは困難ということである。それはローマの人が保守的ということもあるが、ローマの歴史中心地区の建築は史跡財産の保存という意図で、建設工事はほとんど内部の改築、改造のみである。郊外でも、建築の寿命が日本ほど短くなく建設数はほんのわずかであり、それを請け負うには経験を積んだ年配の建築家がやはり有利である。したがって若手建築家がここで設計をする機会をつかむにはまさに社会の隙をつくしかない。
このような状況のなかでローマに事務所を構える若手建築家、アンドレア・スティーパはどのようなスタンスで仕事をしているのだろうか。

三つのレヴェルによる設計の探求

 
アンドレア・スティーパは一九六四年にシチリアのカターニャで生まれた。八九年、ローマ大学建築学部を卒業した後、ニューヨークへ渡った。そこで彼はアイゼンマン事務所に勤め、その後コロンビア大学(Master in Advanced Architectural Design)に通った。このアメリカでの二年間の体験は思想的にかなり影響を受けたと彼は語る。
インターネットという巨大な文明の産物が出現して以来、各国の距離はますます近くなり、すべての面で統一、統合化への傾向は当たり前の昨今、建築もそうあっても不思議ではない。しかし、ニューヨークの建築スタイル、またはアメリカで培われた思考が、イタリアでの設計活動にどう影響を及ぼしうるのかはいまひとつわかりにくい。世界の産業をリードするニューヨークと、永遠の都とよばれ典型的ヨーロッパの都市のローマとでは生活習慣はもちろん都市の機能の仕方からしてまったく異なり、建築への思想は対極にあるように思われる。ニューヨークでの経験が現在の彼の設計活動にどのように影響しているのだろうか。
それは明白な三つのレヴェルによる設計の探求であった。第一段階は文脈の読み取り、第二段階はプログラミング、そして第三段階はコンセプチュアルなレヴェルである。具体的にいえば、文脈の読み取りのレヴェルとはその場所の歴史性、自然環境、街並み、生活背景などその土地がもつ文脈に結びつけることであり、プログラムのレヴェルとは設計される建物の機能、施主の要求などを具現化する段階であり、コンセプチュアルなレヴェルとは、時には現代の建築に対する批判にもなる、設計側からの提案、問題提起のことである。彼曰く、良い建築とはこの三つのレヴェルが上手く構成され適合していなければならない。
この三つのレヴェルを並立させる試行中にはひとつの段階が別の段階へ影響を及ぼし、それがある方向への導火線となって終結を迎えることもある。そしてまたこの三つのレヴェルはあるひとつのプロジェクトでいつも同じ比重ということもない。例えば設計コンペでは、第三のコンセプチュアルな段階に比重が置かれることになる。しかしながら、彼の設計コンセプトは文脈の読み取りから発展して生まれることが多い。

社会と建築の関係を充填する

 
最近行なったコンペ設計競技PVAC(Palos Verde Art Center)をその例に挙げる[図1]。PVACのコンペは現在の建物を拡大して芸術の学校と美術館にするのが課題だった。彼らは、その古い建物を新しい建物の屋根面として抽象化し、現在使われている美術館の一階は遊歩道となるよう取り除いた。光の壷と名づけられた光が透過する張力のある構造体でつくられたヴォイド空間は、三つの主要なギャラリーの中心に光を入れ外部の様子を知覚させる目的で挿入されている。この古い建築と新しい建物間に浮遊する光の小袋のような空間の遊びで、現存の建築に対する批評を行なっている。

1──「PVAC」コンペ案

1──「PVAC」コンペ案

一方実際のプロジェクトとしてワーナーヴィレッジ社の映画館《CINEMA MODERNO》を見てみよう[図2]。これは以前パートナーとして仕事をしていた建築家リチャード・ランニングとの設計である。ローマの中心、歴史的街並みの中に建つ二つの映画館Cinema Moderno(一九〇三)とCinema Modernetta(一九五〇)のうちCinema Modernoの空間に五つのホールを想定して改築するという計画だった。ここでは古い建物と新しい空間が必然的に対照的に浮き彫りにされる。そこで彼らは接合部の光、素材、寸法を、新旧の両者で継続されるように計画した。Cinema Modernoの空間はローマの歴史的中心地区にあるにもかかわらず潔く新しい建築スタイルを導入した。しかし素材にはオリジナルの立面を尊重し、トラバーチンを全面に用いている。スティーパは歴史的な街並みの中に新しい建築を設計するにあたって、あえて歴史的な様式を継承する必要はないと考える。むしろいかに巧みに現代建築を挿入するかを考えるという。そんな考えのもと設計された《CINEMA MODERNO》はローマの建築では斬新なデザインだが歴史的な街並みの中に違和感なく溶け込んでいる。

2──《CINEMA MODERNO》

2──《CINEMA MODERNO》

また同じく実施計画の《シエナの教会》はひとつの特殊な例とも言える[図3]。一連の彼の作品と比較すると、とりわけ強い形態をしているのである。彼はその理由について以下のように説明している。「この教会のある敷地にはいろんな形の建物があって、それぞれが自己主張している。だから敷地からは多種多様な流れが感じられるが不協和音を生じているわけでもない。この教会だけを取り上げてみると、一見奇抜な形に見えるが、その場に行くとこの教会も不思議とその多様さに馴染んで調和しているように見えるのである」。実際彼は、建築の形は極力シンプルで、使われる材料は最小限に抑えるべきと考える。単なるミニマリズムではなく、形がシンプルなほどそれぞれ三つのレヴェルが補完される過程がより解読可能になるからだ。そんな彼の理論によれば、たとえ限定された素材で単純な形態に計画されても、結果的に建った建物が要素に満ち溢れ、大きな意味をもつこともありうるのである。
彼の設計行為では、提示されるさまざまな条件が三つのレヴェルにカテゴライズされるが、最終的には再構築され補完される。この補完とは、土地または自然と建物の隙間を埋めることでもあり、施主と建築または社会と建築との関係を充填することでもあり、都市の隙間を埋めることでもある。そしてまた、彼の設計はなにより世間の隙をついて仕事を得ることから始まるのである。

3──《シエナの教会》

3──《シエナの教会》

>柳志野(ヤナギ・シノ)

1968年生
アトリエdiシノ一級建築士事務所主宰。建築家。

>『10+1』 No.22

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