RUN BY LIXIL Publishingheader patron logo deviderLIXIL Corporation LOGO

HOME>BACKNUMBER>『10+1』 No.22>ARTICLE

>
07:ノイトリングス&リーダイク:太ペンで描く | 寺本健一
Neutelings & Riedijk: Drawing with Fat Lines | Teramoto Kenichi
掲載『10+1』 No.22 (建築2001──40のナビゲーション) pp.96-97

ウイリアム・ヤン・ノイトリングス Willem Jan Neutelings:1959年オランダ生まれ。1977─86年デルフト工科大学に学ぶ。1981─86年コラボレートアーキテクトとしてOMAに参加。
ミヒャエル・リーダイク Michiel Riedijk:1964年オランダ生まれ。1983─89年デルフト工科大学に学ぶ。1992年ノイトリングス&リーダイクアーキテクツ設立。
主な作品=《ミネアルト・ビルディング》(ユトレヒト、1995)、《道路・運河管理ビル》(ハーリンゲン、1998)、《IJタワー》(アムステルダム、1998)など。

ノイトリングス&リーダイクの作品は建築作品とともに、たびたび太いマジックインキペンで描かれたカートゥーン風のイラストパースやダイアグラムが示され、極端なロジックの展開と独特な彫刻的建築外観が強調される。あのポップなピクトはプレゼンテーションのためだけに描かれたものではない。事務所には、あの太いペンが散在している。ロジックを明快に整理していくことと、自明な建築外観となることに向かって、太ペンはいつも走り続ける。
ノイトリングス&リーダイクは、オランダのロッテルダムを拠点にし、次々と斬新なプロジェクトを発表し続けている。実現した作品としては、オランダとベルギーに集合住宅、商業施設、教育施設、二つの消防署、郵便局などがある。現在事務所で稼動しているいくつかのプロジェクト、ヒルバーサムの「オーディオ・ヴィジュアル・アーカイヴ」[図1]、アントワープの「海洋博物館」[図2]、ロッテルダムの「水運流通大学」[図3]などはいずれも大規模なプロジェクトであり、今まさに躍進中といったところだ。

1──「オーディオ・ヴィジュアル・アーカイヴ」 ヒルバーサム、1999

1──「オーディオ・ヴィジュアル・アーカイヴ」
ヒルバーサム、1999

2──「アントワープ海洋博物館」 アントワープ、2000

2──「アントワープ海洋博物館」
アントワープ、2000

3──「水運流通大学」 ロッテルダム、2000

3──「水運流通大学」
ロッテルダム、2000

《ミネアルト・ビルディング》

 
まず、彼らの代表作ユトレヒト大学の《ミネアルト・ビルディング》[図4]を見てみる。背後に建つ三つの学部棟の連結と、研究室、教室、講義室、オフィス、レストランがプログラム。彼らの解法は極めて単純なロジックに基づく。研究室、教室等、機能が決まりきってしまっている空間とサーキュレーションのための空間に分割されたプログラム表を一度徹底的に解体して、すべてのサーキュレーションのために用意された床面積を、教室群の上部にひとつにまとめあげる。あらかじめ要綱によって細部の仕様まで決められ機能の限定された諸室群が占める六七パーセントの空間に対して、その残り三三パーセントの空間を各諸室を結ぶ通常の廊下としては分散させず、代わりに赤いヴェルヴェットのベンチの置かれたアルコーブや雨水の降り注ぐ一〇メートル×五〇メートルの水盤を擁すひとつの巨大なホールの獲得にあてた。学生はこのホールからそれぞれの教室群にアクセスする。水盤に集められた雨水は教室天井等を巡って、建築全体を循環する冷却媒体やトイレ洗浄水として利用される。
このネットとグロスの隙間に注目したシンプルなロジックは「tare space concept」と呼ばれる。設計前から要綱によって決定してしまっている諸室群とそれ以外の空間の相関に着目したこのコンセプトは、設計対象の建物が巨大な時にも建築内部でプログラムの拡散、断片化するのを防ぎ建築全体を自立的に組織するための設計方法である。「tare space concept」の重要な点は、巨大さゆえのコントロール不可能性を肯定するのではなく、建築内部が自立的に組織されることのできる明解なロジックを発見しようとつとめている点にある。
《ミネアルト・ビルディング》の外観は動物の擬態にも見える独特な形態に、赤褐色の荒い吹き付けコンクリートを身に纏っている。同じ通りの向いに建ち、その断面の構成をそのまま即物的に表現するレム・コールハースの《エデュカトリウム》とは対照的に強力にマッシヴな外観だ。僕がこの大学を見学に行く時はなぜかいつも雨天だが、これは《ミネアルト・ビルディング》を見学する者にとっては幸運なこと。オランダの典型的な雨はホールの水盤を賑わし、前面道路から大きく引きをとって佇む異様な程の量魂は雨に煙り、その彫刻的特性をいっそう際立たせる。プログラムの徹底的な分析と要綱の再編成を後ろ楯にし、明解なロジックによって裸の形態で生み出されたヴォリュームは、単一の外部仕上げと彫刻的デザインが施されてモノリシックに建築の主体性を強調する。内部の構成をそのまま外部に表出するのではない。ひとつの自立したオブジェクトとして敷地にその姿を現わすことで、建築内部での定義と建築外部での定義を明快に行なう。

4──《ミネアルト・ビルディング》 ユトレヒト、1995

4──《ミネアルト・ビルディング》
ユトレヒト、1995

明解なロジック・自明な建築外観

 
最近のプロジェクトを紹介しておきたい。
ヒルバーサムの「オーディオ・ヴィジュアル・アーカイヴ」は、一九九九年秋にコンペティションで一等を得たプロジェクトである。オランダ国内のテレビ、ラジオ放送によって製作されたすべての情報を保存、管理する目的で建てられる。建物の約半分は保存庫として利用され、それに一般公開のためのミュージアム、オフィスを加えるというプログラム。ここでも、彼らのロジックは明解だ。記録収蔵部、倉庫、ミュージアム、オフィス等の機能が決まりきってしまっている空間を、それぞれ異なった形態の四つのエレメントとし、各エレメントを立体的に構成する。その残余がレストランやビデオ上映スペース等を含むパブリックスペースとなるメインホールになる。日射を必要とせず完全な空調が必要とされた記録収蔵部、倉庫の両エレメントを地下に、その他のエレメントは地上部分となるように建物全体はその半分を地中に埋められる。これによってメインホールは段々に狭まる巨大な吹き抜けと深く掘り込まれた渓谷のような大空間をもった。外観では収蔵物をカラープリントしたガラスが四周を囲み、その建物が何者であるかを街に主張し、メインホールとなる巨大なヴォイドをカラフルに照らす。
アントワープの「海洋博物館」は、二〇〇〇年春に世界の強豪がひしめく国際コンペのなか一等の栄冠を勝ち取ったプロジェクトである。再開発地区の旧港の埠頭を敷地として、既存の街並に合わせた低層構成の案が大半を占めるなか、彼らは挑戦的に展示室をスタックし、与えられたプログラムで最大のプレゼンスを得ようとした。まったく同型の箱を九〇度回転させながら一〇個スタックしただけという突き抜けてシンプルな構成だ。
ロッテルダムの「水運流通大学」は事務所で最新のプロジェクト。まだ一冊の簡単なブックレットが作られた段階で、今後、設計のより詳細化がなされる予定のプロジェクトである。ロッテルダムのマース川に面して高さ九〇メートルに立ち上がるこの大規模なプロジェクトでも、明解なロジックは推し進められる。本体に教室群、空中に向かって巨大に張り出す講義室群、東側基壇はシミュレーション教室群、西側基壇はレストラン等パブリックホールという具合。
ノイトリングス&リーダイクの事務所では、プログラムに対する分析と、建築のスカルプチュアルなヴォリュームスタディがそれぞれ同時に並行してなされる。とにかくヴァリエーションを出して両方向からのすり合いをみる、といった徹底的に帰納的な方法だ。ロジックの明解な推し進めと、自明な建築外観の双方を充足させるために、スタディは重ねられる。すべてマンメイドの国オランダでは「ビックネス」を持ち出すまでもなく、建築が内部の明解な定義と自明な建築外観を目指すことが自然にうつる。ノイトリングス&リーダイクは、太ペンで建築を描くことで、今日の建築が置かれている状況に批判的であろうとする。

>寺本健一(テラモト・ケンイチ)

1974年生
シーラカンスアンドアソシエイツ所属。建築家。

>『10+1』 No.22

特集=建築2001──40のナビゲーション

>レム・コールハース

1944年 -
建築家。OMA主宰。