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セヴェラルネス──事物転用のためのかたち | 中谷礼仁
Several-ness: Form for Conversion | Nakatani Norihito
掲載『10+1』 No.37 (先行デザイン宣言──都市のかたち/生成の手法) pp.13-24

電車・舟・住宅

電車が住宅になると何が起きるか。
一九五四年、京都の伏見、もと兵営敷地の一角に、京都市電の廃車体一〇台を利用して「電車住宅」が計画された[図1]。母子家庭の人々のための「住宅」である。「電車住宅」は、幅約二メートル、長さ約九メートルくらいで、建坪にすると六坪程度の極小住宅である。窓が高いため床面の風通しは悪く、夏は湿気がひどかったという。電車という堅固な構造体の転用であるため、家族構成などの変更がなされると、新しい空間要求に対する柔軟な対応ができないことが、この転用住居の最大の特徴であった。
ある家庭の場合、はじめは一家四人が奥の四畳に寝ていたが、七、八年して少し家計にゆとりができてきたので、市に申請して建て増しをした。南側敷地の境界線ギリギリいっぱいに、ぬれ縁付の六畳の部屋に玄関土間と小さな押入がついた。四畳たらずである。もとの入口部分の炊事場をとなりの部屋まで拡げてダイニングキッチンとしている[図2]。
しかし、電車の構造条件から、壁をとりはらうことができないので、建て増し部分と電車部分との行き来は一旦外へ出なければならず、急用の時は窓を通って飛び込む方法しかない[図3]。
一九五七年に電車住宅に入居した子供が二人の母子家庭の場合、その六年後、息子が結婚したのち、母と娘は二畳を寝室とし食寝複合となった。狭い家での同居のため兄嫁と母娘とトラブルが生じ、六カ月後兄夫婦は「電車」を出た。その結果、二年間は母娘の二人きりであったが、娘が結婚して娘婿が増え、母は奥の二畳で就寝することとなった。しかし、娘夫婦に二人の子が生まれ、母親はむかし養女に出した姉娘の家に移り「電車」を出ることとなった。こうして、この電車住宅は完全に世代が替わったのであった。電車住宅はそのかたちの完結性が逆に災いして、生活者の行動変化については、電車躯体+α(増築)のかたちで更新されるか、あるいは居住者そのものが退去するという方法によって、矛盾が「解決」されていたのである★一[図4] 。

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*この原稿は加筆訂正を施し、『セヴェラルネス──事物連鎖と人間』として単行本化されています。

>中谷礼仁(ナカタニ・ノリヒト)

1965年生
早稲田大学創造理工学部准教授、編集出版組織体アセテート主宰。歴史工学家。

>『10+1』 No.37

特集=先行デザイン宣言──都市のかたち/生成の手法