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宇都宮 | 三浦展
Utsunomiya | Atsushi Miura
掲載『10+1』 No.30 (都市プロジェクト・スタディ) pp.34-35

最近宇都宮近辺で事件が多い。原稿を書いている二〇〇二年一一月初頭にも里親による三歳の里子の虐待死事件があった。九月にはジャズミュージシャン渡辺貞夫の兄が殺害される事件、高校生が祖母を殺害する事件もあった。夏には、市内の女子高生が出会い系サイトで知り合った三〇歳の男に殺され、宮城県の港に遺棄される事件があった。
二〇〇一年に、歌舞伎町のビデオ店に爆弾を投げ入れたのも宇都宮に隣接する町村部の高校生だった。二〇〇〇年には宝石店での放火殺害事件。一九九九年に起きたリンチ殺人事件もそうだ。
なぜこのように宇都宮周辺で事件が起きるのか? 
宇都宮市および周辺の町村は一九八四年にテクノポリス地域に指定された。また芳賀町、上三川町などは頭脳立地計画地域に指定されている。
八二年には東北新幹線、東北自動車道、二〇〇〇年には北関東自動車道が開通し、東西南北の交通網が整備された。東京─大宮─宇都宮─東北というツリー上の交通体系のなかで非常に重要な拠点性を持つようになったのである。
こうした交通網の整備により宇都宮周辺には多くの企業が立地するようになった。商業的にもパルコも109もあるし、タワーレコードもHMVもFranc francもあるほどで、渋谷文化がそのまま移植されているといってよい。
他方、栃木県の刑法犯の認知件数は一九九〇年の七七四七件から二〇〇〇年は一〇五八六件に増加。家庭裁判所事件取扱状況をみても、家事審判事件受理件数が一九九〇年の一六〇二件から二〇〇〇年は二八〇三件へと増加している。都市化、あるいは消費社会化がこうした社会問題の増加と比例関係にあることは間違いなかろう。
都市観察者としては、これだけ現代的な素材の揃った宇都宮を研究しないわけにはいかない。都市観察というと、トマソンや路上観察のように都市の廃墟や遺物、おかしなものなどを観察するものと思われがちだが、そのような社会性のない観察だけではただのディレッタンティズムでしかない。藤森照信らの路上観察は今や町おこしイヴェントの一環として行なわれることも多いが、それはいいとしても、最近は国土交通省の道路開発振興イヴェントにまで藤森や赤瀬川原平が登場し、土建行政の片棒を担いでいるのは、いったいどういうことなのか私にはまったく疑問である。
話が逸れたが、こうした関心から、私は二〇〇二年に四回ほど宇都宮市およびその周辺に出かけ、町をみるだけでなく、彼の地の若者にインタヴューを繰り返している。
宇都宮の中心街はオリオン通りと呼ばれるアーケード街で、これは日本の地方都市にしばしばみられる平凡な光景だ。オリオン通りはパルコの裏手から始まり、109もこの通り沿いにある。今はないが、かつてはロフトもあった。プリクラショップなどもある。ロフトのあったビルは今は一〇〇円ショップなどの入る雑居ビルになっている。
オリオン通りに限らず、宇都宮には浜崎あゆみの写真があふれている。付けまつげ売場にも、ウイッグ売場にも、マニキュア売場にも、町、店の至る所にAYUの写真が無数に張られている。いかにAYUが地方のガングロ系女子高生のモデルになっているかがわかる。
109の中のブティックには二〇〇〇年に人気のあったドラマ「池袋ウエストゲートパーク」で長瀬智也が着ていた服はこれだという貼り紙もある。
もちろんモー娘。の写真、ポスターもあふれている。総じてメディアが若者の流行を直撃している印象だ。
しかし宇都宮109の人気は私が聞いた限り高くない。その理由は、カリスマ店員がいないことだという。また109の前のオリオン通りでは、野菜を安売りする市がたつなど、周辺の雰囲気も問題らしい。要するに宇都宮109は偽物だというわけだ。
さてオリオン通りを過ぎると、今度はユニオン通りという通りがある。ここは東京でいえば、高円寺、下北沢風であり、若者向けの古着屋、美容室などが軒を連ねる。
ここには高円寺で開業したインド雑貨屋「仲屋むげん堂」もあるが、その店の看板にはなんと「高円寺─吉祥寺─渋谷─宇都宮」と書かれている。東京のストリート系のサブカルチャーが宇都宮にも来たぞ! というプロパガンダのようである。
ほかにも下北沢や代官山の店とのつながりをアピールする店はいくつかある。昔は銀座という名前が日本中の商店街に広がったが、今や日本中の若者にとっては、渋谷、原宿はもちろん、高円寺や下北沢までもがかつての銀座と同様の意味あいを持っているのだ。
このように今、地方は見事なほど東京のディテールを模倣し、消費社会化している。
私が会った一九歳の土建業の少年は、中学生の時にすでにエビスジーンズとナイキのエアマックスを買うことが仲間内でのブームであったといい、今ではプラダの財布を持ち、一七歳の彼女にブランドものを買ってやる相談をするのが、彼の幸せらしい。もちろん通勤用に自動車を持っており、いつか欲しい車はベンツだという。東武百貨店のルイ・ヴィトン売場にはそうした若いヤンキー系のカップルがあふれている。
AYU、モー娘。、高円寺、ヴィトン……。一見無関係なアイテムの連鎖が、現在の地方の消費社会化の姿を見事に浮き彫りにしている。と同時に、日本の消費社会や若者文化全体の持つ問題性がそこにあぶり出されているように思える。

1──池袋とのつながりを強調する店(オリオン通り)

1──池袋とのつながりを強調する店(オリオン通り)

2──渋谷から109も進出(オリオン通り)

2──渋谷から109も進出(オリオン通り)


3──ユニオン通りの北アフリカ風(?)美容室

3──ユニオン通りの北アフリカ風(?)美容室

4──「高円寺─吉祥寺─渋谷─宇都宮」と書かれた看板に注目!(ユニオン通り)

4──「高円寺─吉祥寺─渋谷─宇都宮」と書かれた看板に注目!(ユニオン通り)

5──裏原宿もやってきた(オリオン通り) いずれも筆者撮影

5──裏原宿もやってきた(オリオン通り)
いずれも筆者撮影

>三浦展(ミウラ・アツシ)

1958年生
カルチャースタディーズ研究所主宰。現代文化批評、マーケティング・アナリスト。

>『10+1』 No.30

特集=都市プロジェクト・スタディ

>藤森照信(フジモリ・テルノブ)

1946年 -
建築史、建築家。工学院大学教授、東京大学名誉教授、東北芸術工科大学客員教授。