RUN BY LIXIL Publishingheader patron logo deviderLIXIL Corporation LOGO

HOME>BACKNUMBER>『10+1』 No.27>ARTICLE

>
ベッド | 松原弘典
Bed | Matsubara Hironori
掲載『10+1』 No.27 (建築的/アート的) pp.35-38

自分が興奮を覚えることのひとつに、あるモノのさまざまなヴァリエーションが一堂に並んでいる状態というのがある。市場というのがまさにそれ。今回は鋼材、布、家具など、さまざまな市場を回ったが、そこでは例えば「カーテンの布」というくくりでものすごくいろんな種類の布が一堂に集められていたりする。もちろんそのヴァリエーションの豊富さに眼を奪われるのだが、よく考えてみるとそれと同時に、自分は「カーテンの布」というくくりの強固さにも感心していることに気がつく。「カーテンの布」という形式ひとつが定まっただけでこんなにまでいろんなものができるのか、というような驚き。市場にいる自分が惹かれているのは、多様性のみでなく、その多様性を保障する形式の強さ、のようなものだとも思う。何か自分でモノを作るとき、その成果品はもちろん、市場に無数に並べられたカーテンの布のように多様さのなかに組み込まれる。ただできることなら自分は、その多様なうちのひとつになるだけではなく、そもそも多様性を可能にするような強い形式自体をつくることができないか、というようなことを市場で売られている膨大な種類のカーテンの布を前にして考えた。新しい柄のカーテンをつくってよしとするのではなく、そもそもカーテンにかわる何かほかのモノをつくれないか、という問い。まぁこの問題は考えるのにはもっと多くの時間のかかることなんだろうけれど。

ベッド─床

今回作るのはベッド、中国語では床という。ちなみに日本語の床は中国語では地板というので、こっちに来たばかりのころ「床仕上げは石貼り」などと筆談したら変な顔をされたことがあった。最近はここ瀋陽でもさまざまな種類の国産品の家具を扱う家具屋が多くなり、そういうところではベッドとソファが二大目玉商品のようで、一番いいところにこれらがデンと置かれている。ベッドは紫檀調の木枠のものが、ソファは黒い革張りの大型なものが人気があるようだ。つくろうと思ったのはシンプルなスチールの架台にマットを載せたもの。主要な材料は鉄なので前回と同じだけれど、枕とマットカバーも特注しようと思っているのでファブリックも扱うことになる。鉄に関しては完成品からもわかるように、線材の曲げ加工、コーナー部分のアングル部材の留め加工などが今回の加工のポイントになった[図1・2]。

1──完成品。グレーに塗装された鉄製の架台の 上にマット、ベージュのマットカバーと枕 この一式で1056元(16896円)

1──完成品。グレーに塗装された鉄製の架台の
上にマット、ベージュのマットカバーと枕
この一式で1056元(16896円)

2──40×40×3のアングルが 最外枠で内側に30×30の角パイプを 回してある。その上面にエキスパンド、 下面に直径5ミリの丸鋼を曲げて作った脚を 固定している

2──40×40×3のアングルが
最外枠で内側に30×30の角パイプを
回してある。その上面にエキスパンド、
下面に直径5ミリの丸鋼を曲げて作った脚を
固定している

鉄芸加工

前回と同じ街の看板屋でつくろうと思っていたが、難しいからと断られた。そこで家具城(大きな建材市場で、家具完成品のほか内装、家具材料一般を売っている)の周りにいくつかある「鉄芸加工」の会社のひとつ[図3]を訪ねた。こういう会社は普段は鉄製の垣根や階段手すりなどをつくって販売している鍛冶屋で、前回の看板屋に比べてだいぶ本格的な内外装金属工事一般を請け負っているということになる。お店に陳列しているサンプルを見せてもらうと、繰り返し現われる装飾部分には鋳鉄を使っていたり、板金で文字看板をつくっていたり、電解研磨で表札をつくっていたり、ほかにもいろいろな技術を持っていた。
図面を見せてこちらの意図を理解してもらう。曲げ加工を要する脚の部分は原寸図をもっていったのでだいぶ実感をつかんでもらえた。費用は最初は八八〇元と言われたが、他の会社では四〇〇元でできるなどと言い返して何度かもみあう。最終的には五〇〇元(八〇〇〇円)で材料、塗装、自宅までの運搬込みでおちつく。ただし工場を見せてもらうこと、途中何度か工場に行って職人に詳細を確認したいのでそれを受け入れること、などを条件にした。本当は何社か回って値段を比べればもう少し下がったかもしれないが、なんとなく雰囲気がよくてここにお願いすることにした。

3──鉄芸加工「金豹鉄芸」正面。 このあたりの同業者の店構えは みんな鉄芸の技術を誇示するために さまざまな看板がついている

3──鉄芸加工「金豹鉄芸」正面。
このあたりの同業者の店構えは
みんな鉄芸の技術を誇示するために
さまざまな看板がついている

工場

翌日郊外の工場に材料を確認しに車で連れて行ってもらう。壁で囲われたなかなか広い敷地、五〇〇〇平米くらいはあると思う。そこにいくつかの建物が建っていて、溶接作業場、鋼材倉庫、塗装場所などがあった。工員が一〇〇人いるなかなか大きな工場だ。四〇角のパイプは二・三ミリ厚のものしかなくちょっと重そうだったので、ここで思い切ってサイズをひとつ下げて三〇角にし、アングルも五〇×五〇だったのを四〇×四〇まで下げた。構造的には心配ないと思うが、どういう印象になるかはまだ少し見えない。色もシルバーで考えていたが、これは仮組みまで保留にしてもらった。
一週間後、再び工場へ。アングルと角パイプの台、丸鋼の脚とそれぞれの部材ができていて、一体化する前の状態だった。案外よくできている。脚は細い鉄棒を点溶接でくっつけただけなので上から力を加えるとまだしなるが、これは角パイプの台に固定すれば圧縮が効くのでおそらく安定するだろう。部材全部持ってみてもそんなに重くない。台の上に溶接する予定のエキスパンドがちょっと華奢すぎる。仮りに今工場にあるものを出してきただけだというので、はっきりと寸法を指定して別の物を探してもらうようにした。
このとき初めて実際に手を動かしている職人さんとその親方に会うことができた[図4]。ここまでつくるのに職人一人で丸二日程度とのこと。脚と台それぞれの部材の固定位置について直接その職人さんたちと図面を確認する。さらに各部の平滑処理を丁寧にするように念を押す。塗装については小さな見本帳を見せてもらい、シルバーにしようと思っていたが艶が多いので淡灰色にした。艶も全艶と半艶で選べるというので半艶を指定。職人さんがよく図面を理解していたので安心した。
さらに三日後に完成品を工場まで見に行く。台と脚を一体化したらかなりしっかりした。最後に角パイプとアングルのサイズをひとつ下げたのは正解だった。脚の丸鋼は短辺方向がまっすぐなので、水平もきちんと出ている。最後のエキスパンドの溶接は少し荒い、やっぱり塗装前のすべて溶接が終わったときにチェックを入れたほうがよかったと反省。エキスパンド自体も指定どおりの部材になっていたがまだちょっと華奢だった。まぁ上に載るマットがしっかりしているし、寝るのには問題ないだろう。二トントラックで自宅まで運んでもらう。

4──直径5ミリの丸鋼で組まれた 脚部を持つ職人

4──直径5ミリの丸鋼で組まれた
脚部を持つ職人

マットとマットカバー

鉄の架台と並行してマットは家具城で情報を集める。それまでに見ていた市内の一般的な家具販売店ではマットの大きさがまちまちで、スチール架台のサイズを決めあぐねていたが、結局ここならマットを縦横厚ともサイズ指定でつくれることがわかった。そこでベッドの平面は一九〇〇×一〇〇〇で決定。ここではマットを既製品と特注品という区別なく、客の要望に合わせてそのつどそばの工場でつくっていた。販売店にはよく出るサイズを置いているが、表面と内部構造の仕様がかわらなければサイズをオーダーしても値段は変わらない[図5]。一九〇〇×一〇〇〇で厚一二〇の大きさを希望していたが、この程度だとどこの問屋もだいたい四五〇か五五〇元(七二〇〇円か八八〇〇円)という価格提示。日本人とばれたところでは五五〇、簡単な会話ですぐ値段が聞きだせたときは四五〇だったので、外国人相手にはまず一〇〇元は多めにふっかけるということなのだろう。頼むと翌日にできた。結構硬くて重い。スプリングの骨組みを化繊で覆っている。
マットカバーのほうは単色のきれいな布を見つけるのが意外と難しかった。そもそも布は布で奥の深い世界があり、とても僕が家具の片手間でどうのこうのできるようなものじゃないとも思った。瀋陽の中心にある軽工業産品を扱う最大の五愛市場で布を見る[図6]。布関係は衣服用、カーテン用、シーツ用に分かれていて、それぞれさまざまな種類がある。ただ普通のシーツ用の綿布は柄モノばかりで、僕のほしい無地のものはなかなか見あたらない。カーテン用なら幅も二メートル以上のロールであるが、そうでないと通常は〇・九メートル幅のものが多い。僕のベッドはマットが幅一メートルで厚みが一二センチあるのでやはり布も幅一・五メートル以上は欲しかった。ようやく化繊の無地で一・五メートル幅のものを見つける。淡いベージュ色の無地、一メートルで一四元(二二四円)。枕カバー分も含めて四メートル分購入する。さらにこの布を加工してもらうために、うちの近所のカーテン屋に行く。市場の中でも加工はできるのだが人が多くてちょっと慌しいのでうちのそばで少しゆっくり話をしてつくってもらおうと思ったからだ。近所ですでに調査はすませていて、値段の相場もわかっていた。寝具屋とカーテン屋は街中にもたくさんあるのだが、なぜか多くの寝具屋は完成したクッションやマットカバーを扱うのみで、カーテン屋にはミシンがあってそこでカーテンのサイズ直しのほかに簡単なクッションやカバーをつくってくれる。マットカバーの製作はお店の布を選んで加工してもらうと四五元、材料持込みだと加工費だけで二〇元程度。今回はマットカバー加工費二〇元、枕加工費一〇元、枕の中に入れる綿二メートル分二〇元で合計五〇元(八〇〇円)で話がついた。枕の綿は自分で市場で買っておけば半額にできたけど、ここはお願いしてしまった。できた枕はちゃんとファスナーもついてシンプルにできていた。やれやれ。

5──家具城内のマットの小売問屋。平積みにして売っている

5──家具城内のマットの小売問屋。平積みにして売っている

6──五愛市場の布販売部。カーテンの布を一堂にならべて売っている

6──五愛市場の布販売部。カーテンの布を一堂にならべて売っている

未発達とみるか面白いとみるか

今回はさまざまな業種にお願いしたものを少しずつ組み合わせて家具をつくった。そこで思ったのは、自分がつくりたいものを実現するための材料や技術は、ここ中国でも実際始めてみればなんとか見つかるものだということ、そしてそういう材料や技術を取り巻く状況も意外と秩序だっているということ。ただしそれが便利な形で繋がっていなかったり、それぞれが狭い世界でばらばらに独立してしまっている部分が多い。組織化されているところでは既製品という形で商品が出回っているけれど、まだデザインのうえでは満足できるものは少ない。
既製品で囲い込まれていない世界を未発達な状態と考えるのはたやすいだろう。中国の生産現場はまだ全体的には組織だっておらず参入が難しいとか混乱しているという見方。しかし逆に言うとこの「いい既製品がない状態」というのは面白く読み替えられるかもしれないと思った。つまり材料なり技術は転がっていて、「探せばある」のだから、それをあとはどうやったら面白く、あるいは効率よく、自分のニーズにあった形で組み合わせていくか考えればいいわけだ。それはまぁそれなりにしんどいけれど、ゼロからでない分、いろいろな可能性があるとも思った。

今回のコスト
今回は一元=一六円で計算している。前回が一五円でじりじりと円安が進んでいるのはニュースでもよく聞くが、今の職場の給料は元と円の半々なので複雑。

スチール架台:五〇〇元(八〇〇〇円)
・    数量:一台
・    サイズ:l1900/w1000/h340
・    素材:四〇×四〇×三Lアングル、三〇×
    三〇角パイプ、直径五丸鋼、エキスパンド
    メタル板
 *このうち材料代は八二元(一三一二円)程度(鋼材市場での調査による、Lアングル六メートル一八元、角パイプ一〇メートル三三元、丸鋼三八メートル一六元、エキスパンドメタル二平米一五元)
*工場納期約一〇日

マット:四五〇元(七二〇〇円)
・    数量:一枚
・    サイズ:l1900/w1000/h120
・    素材:スプリングの骨格、化繊のカバー 
 *納期は二四時間

マットカバーと枕:一〇六元(一六九六円)
・    数量:各一
・    サイズ:枕は直径二〇〇幅一〇〇〇、マットカバーはマットの大きさ
・    化繊の布、枕内部は綿で厚四〇程度で長
    二〇〇〇のものを丸めて入れている
 *このうち布代が一四元×四メートル=
    五六元(八九六円)
 *納期は二つで三〇分!

コスト総合計:一〇五六元(一万六八九六円)

最近は南方の国内産で、外国でも売れるようなグレードの既製品家具がここ瀋陽でも出回るようになった。いろいろリサーチしてみると、シングルベッドだと一五〇〇元(二万四〇〇〇円)前後が相場のようだ。今回の自分の制作費だとまだ少し高い。もし国内販売を考えるならせめて制作費を七〇〇元前後に落とさないといけないだろう。まぁ数がまとまればスチール架台とマットの部分で単価を下げることはできるとは思うのだが。


これを高いとみるか、安いとみるか?

この記事のご感想は    
http://members.aol.com/Hmhd2001/ からお願いします。

>松原弘典(マツバラ・ヒロノリ)

1970年生
北京松原弘典建築設計公司主宰、慶應義塾大学SFC准教授。建築家。

>『10+1』 No.27

特集=建築的/アート的