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建築ガイドブックガイド | 岡部友彦+佐々木一晋+田中陽輔+山雄和真
The Guide to | Okabe Tomohiko, Sasaki Isshin, Tanaka Yosuke, Yamao Kazuma
掲載『10+1』 No.38 (建築と書物──読むこと、書くこと、つくること) pp.136-139

建築ガイドブックのすすめ──総論にかえて


学生であろうとなかろうと、およそ建築を志すすべての人のなかで、建築を訪れ、巡り歩く(そう、まさに巡礼という言葉がふさわしい)経験を持たない人はいるまい。ガイドブック片手に、自分の住んでいる周りの都市から、言葉もろくに通じない外国まで。これだけだと一見普通の観光客と同じように聞こえるかもしれないが、実際旅先で建築を見て歩く人たちに出会ったら、たとえ日本人でなくても、彼らが普通の観光客か建築巡礼者かは一目で違いがわかるものだ。まず目が違う。彼らには目的がある。何時間も深夜バスに揺られ、ほかに特に有名スポットもないような街の裏通りを抜け、ようやくお目当ての建物に着いたと思ったら、自分と同じ目をした人々の集団にばったり──という経験をお持ちの読者も多いだろう。
ひとまず日本に限って話をすると、一九九四年、「建築MAP」シリーズのトップを切って『建築MAP東京』が発売されたことはひとつの事件だった。それは東京という都市において、建築が都市遊歩者の消費の対象になったことを意味している。巨匠の作品も、デビューしたての若手の作品も、いったんそこで取り上げられるべき「建築作品」として認められれば、後はまっさらな縮尺付きの地図上に正確にその位置がプロットされていくだけだ。あえて近代以前にまで遡らなくとも、かつて「建築作品」は限られた存在だった。圧倒的多数を占める茫洋たる建物群の、その風景の中できらびやかに存在を主張する、有名建築家の手による作品たち。きわめて単純に、都市とは多くの建物によって構成されているものだと言ってしまうなら、建築はまさに都市の特異点として存在していた。ガイドブックはその独立した特異点を「建築作品」というコードのもとに再統合する。それぞれが持っていた固有の物語ごと飲み込んで(それはたいてい作品解説という形で簡潔に記述されることになる)、一種の等価性を与えられた「建築作品」群が、地図というツールによって都市を再描写する。けれどそのなかには、このコードに基づいた都市の秩序を発見しようとする空間人類学的視点があるわけでもない。それらは等価な、選択可能な消費対象として、ただ僕らの前に投げ出されている。今回取り上げたガイドブックのうち、ル・コルビュジエやアルヴァ・アアルトなどの巨匠の作品群を対象にした少数の物を除いて、ほとんどがある都市をフレームとして構成しているのは理由のないことではない。ファッション、グルメ、イヴェント、都市に満ちているさまざまな事物は、ガイドブックという形式が与える等価性によって消費対象として設定される。都市というフレームが、そのフィールドを用意している。建築が、それらの事物と同様な都市の一構成要素であることが確かなものになったとき、ガイドブックという形式が要請されたのだと言えないだろうか。
ともあれ、僕たちの結論はこうだ。ガイドブックは持ち歩くものである。地図が載っている。住所が載っている。最寄りの駅が載っている。建築ガイドブックを、ほかの建築カタログと分かつものはただこの一点にある。エクスナレッジから出版された文庫本サイズの「東京を歩こう」シリーズはまさにこの持ち歩くということを徹底的に意識して作られている。「建築MAP」シリーズが昨年、サイズを大幅に縮小した「建築MAP mini」シリーズとして改訂されたことをご存知の読者も多いだろう(この新シリーズにはサイズが小さくなった分、なんとルーペが付属している)。そして上述したように、ガイドブックという形式において見られる「建築作品」群の等価性を考慮すれば、重要なのは「何が」載っているかではなくて、「何個」載っているかである。だからガイドブックのガイドとして、ここでは単純に、いかに「ハンディ」であるかを分類の基準として考えた。具体的には、まず各々の本の「大きさ」を把握し、「重さ」を測り、情報量すなわち「建築物件数」のパラメーターを加算する。
建築ガイドブックはますます、都市遊歩者に寄り添ってきている。情報のコンパクト化はさらに加速するだろう。ただし、グルメだろうがファッションだろうが、ほかの多くのガイドブック同様、ガイドブックは所詮ガイドブックだ。真に都市を、建築を体験するためには、自らの目を鍛えるしかない。自らの足で歩くしかない。
[K・Y]

建築ガイドブックガイド/The Guide to "Architectural Guidebook"
ここで紹介する書籍は、建築物の所在と基本情報、地図情報が1冊に体系化されて収められた世界各国の建築・都市ガイドブックである。
これらのガイドブックの仕様(重量、スケール、掲載建築数、ページ数等)を俯瞰的に捉え、特定の都市・建築像に傾倒することなく記号的に建築ガイドを眺めることで、何が見えてくるのだろうか。

>岡部友彦(オカベ・トモヒコ)

1977年生
コトラボ合同会社代表。建築家。

>佐々木一晋(ササキ・イッシン)

1977年生
東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程。建築意匠、環境情報科学。

>田中陽輔(タナカ・ヨウスケ)

1979年生
東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程所属。建築・都市形態学。

>山雄和真(ヤマオ・カズマ)

1978年生
CAt勤務。建築家。

>『10+1』 No.38

特集=建築と書物──読むこと、書くこと、つくること

>建築MAP東京

1994年8月1日

>ル・コルビュジエ

1887年 - 1965年
建築家。